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2025年2月20日

小岩広宣社労士の「人材サービスと労務の視点」266・アンコンシャス・バイアスは女性差別解消の取り組み?

Q 「アンコンシャス・バイアス」への対処を進める取り組みは、女性差別の解消を目的としているのでしょうか。

koiwa24.png 前回では、「アンコンシャス・バイアス」(unconscious bias)の概要について取り上げました。自分自身が気づいていないものの見方や思い込みが無意識のうちに周囲に負の影響を与えてしまうことから、職場における人間関係などをめぐっても配慮や対処が必要だと国も啓発の必要性を喚起しており、最近は人事や労務の分野を中心にこの言葉が飛び交う機会も増えてきました。実際に、企業の人事部や研修部署のみならず、部下を持つ上司への教育や啓蒙が必要だという意識は高まりつつあり、全社的な取り組みとしてアンコンシャス・バイアス研修などを実施するケースもしばしば見られます。

 ところで、最近筆者はアンコンシャス・バイアスについて、このような質問を受けました。それは、アンコンシャス・バイアスへの対処は、もっぱら女性活躍の推進や男女の賃金格差の是正を目的としているのかというものです。たしかに、アンコンシャス・バイアスについて国の取り組みとして書かれたリーフレットや資料を見ると、女性活躍推進、男女賃金格差、性別役割意識といったキーワードが多く、おもに女性を取り巻く職場における差別や不利益などを是正、解消することを狙いとしていることを読み取ることができます。

 ただ、前回触れた石破茂首相の年頭記者会見や施政方針演説での発言をみても、アンコンシャス・バイアスへの対処は女性とともに若者が働きやすい職場づくりが念頭に置かれており、無意識の思い込みの解消によって従来の固定的な雇用慣行が見直されることが目指されています。男性の中にもさまざまな属性や特性をめぐるマイノリティが存在し、アンコンシャス・バイアスをめぐる問題が起こり得ることからすれば、広く雇用社会におけるマイノリティが意識されていると考えることができるでしょう。

 男女共同参画局の「無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)事例集」では、女性を取り巻くアンコンシャス・バイアスとともに、男性における事例も多数紹介されています。「男性なら残業や休日出勤をするのが当たり前だ」「大きな商談や大事な交渉事は男性がやる方がいい」「男性は結婚して家庭を持って一人前だ」「共働きでも男性は家庭よりも仕事を優先すべきだ」といった項目は、男性中心、男性優位の価値観という受け止め方もできる反面、男性ゆえに職場や社会から求められる規範によって、個性の埋没や主体性の欠如、働き過ぎやハラスメントなどの素因になっている面もあると考えられ、その意味では男性をめぐる問題も深刻だといえるでしょう。

 雇用をめぐる男性のテーマと女性のテーマは、コインの裏表の関係に近いといわれます。旧態依然の性別役割意識に阻まれて女性活躍推進が思うように進まず、男女の賃金格差が是正されないことで、職場の活性化や生産性の向上が進捗しないというテーマの裏側には、まさに男性が男性ゆえに「男の生きづらさ」を感じて閉塞感に陥り、長時間労働や行き過ぎた仕事上の責任が重くのしかかることで、むしろ反射的に女性差別の構造が取り残されてしまっている面も否定できないのかもしれません。

 蛇足ですが、筆者はさまざまな職場でアンコンシャス・バイアスに関する研修などを実施し、社内におけるワークショップの仕組みなどを開発していますが、具体的な実践にあたっては、必ずしも女性差別解消という面のみにフォーカスせず、課題や設定に際しては、男性視点、女性視点をバランスよく盛り込み、あえて男性に女性視点、女性に男性視点からのワークに参加してもらうケースもあります。多様性尊重の時代に向けたひとつの事例として、参考にしていただければと思います。

(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)

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