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2025年2月13日

小岩広宣社労士の「人材サービスと労務の視点」265・アンコンシャス・バイアスとは?

Q 最近、「アンコンシャス・バイアス」という言葉をよく聞くようになりましたが、どのようなものでしょうか。

koiwa24.png 「アンコンシャス・バイアス」(unconscious bias)とは、一般的に「無意識の思い込み」と訳され、自分自身が気づいていないものの見方や捉え方のゆがみ、偏りのことをいいます。特定の意図が込められていたり、具体的な感情が背景にあったりする「差別」とは異なり、必ずしも自分自身は意識していないバイアスであるところに特徴があります。今年になって象徴的な場面としては、石破茂首相が年頭から「アンコンシャス・バイアス」という言葉に触れています。

1月7日・年頭記者会見(三重県伊勢市)
 男女に関する賃金格差や無意識の思い込み、最近、これはアンコンシャスバイアスと言うのだそうですが、無意識の思い込みの解消など、若い方々、女性の方々、そういう方々が働きやすい職場づくり、地域づくりに官民一体となって取り組んでまいります。

1月24日・第217回国会施政方針演説
 若者や女性が働きやすく魅力ある職場づくりを進めるため、アンコンシャス・バイアス、すなわち無意識の思い込みの解消を図るとともに、男女の賃金格差の是正を促進する法案を提出します。


 施政方針演説で触れられた男女の賃金格差を促進する法案とアンコンシャス・バイアスの解消とは、法的な枠組みとしては別個の取り組みだと思われますが、首相が一年間の政府の基本方針や政策についての姿勢を国会で示す施政方針演説で、具体的にアンコンシャス・バイアスという言葉が盛り込まれたことの意味は小さくないといえるでしょう。

 アンコンシャス・バイアスの存在が女性活躍推進の妨げとなり、男女の賃金格差にも結びついているという認識から、国もアンコンシャス・バイアスへの対処を目指す周知・啓蒙などの取り組みを行ない、内閣府の女性の職業生活における活躍推進プロジェクトチーム中間取りまとめ(令和6年6月5日)でも、「依然として性別固定的役割分担意識、とりわけ、女性の活躍を無意識に阻むアンコンシャスバイアス(無意識の思い込み)が根深く存在しており、それが男女間賃金格差にもつながっている」と指摘されています。

 内閣府男女共同参画室も数度に渡って「性別による無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)に関する調査結果」などを実施しており、令和4年度の調査では、以下のような概要が報告されています。

・性別役割について、「そう思う」「どちらかといえばそう思う」と回答した割合は、男性の方が高い
・全項目平均では、性別役割の「意識」は男性が高い一方で、直接言われた・言動や態度から感じた「経験」は女性のほうが多い
・職場の役割分担に関する項目において、20代男性で「そう思う」「どちらかといえばそう思う」と回答した割合が高い


 性別役割への質問についての回答では、男性の方が女性よりも高い割合となっており、「男性は~べきだ」という項目などで男性の割合が高いなど、アンコンシャス・バイアスをめぐる意識において男性の方が一般的にこだわりや執着が強い一般的な傾向を見ることができます。アンコンシャス・バイアスの存在自体は誰もが持つものであり、絶対的に悪いものだとはいえませんが、無意識のうちにバランスの悪い言動などを取ってしまうことで、周りに負の影響を与えることのないよう、自覚と配慮が必要だといえるでしょう。

 言葉でアンコンシャス・バイアスと口にしても、なかなか抽象的で実感が湧かない部分もあるかもしれませんが、男女共同参画局がまとめた「無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)事例集」では、「男性なら残業や休日出勤をするのが当たり前だ」「育児期間中の女性は重要な仕事を担当すべきではない」といった職場でありがちな具体的な事例集が紹介されていますので、参考にしたいものです。

無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)事例集(男女共同参画局)


(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)

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