Q 日本郵便が下請法違反で公正取引委員会から行政指導を受けたという報道を聞きましたが、この場合の下請法とはどのような内容なのでしょうか。
A 日本郵便が「ゆうパック」の配送を委託する下請け企業からコスト上昇分の価格転嫁を求められたのに十分な対応をしなかったとして、公正取引委員会が下請法違反(買いたたき)にあたる恐れがあるとして行政指導しました。また、誤配達やクレームなどがあった場合に、十分な説明をせずに違約金を徴収していたとして、昨年6月にも下請法違反(不当な経済上の利益の提供要請)で行政指導されています。「買いたたき」や「不当な経済上の利益の提供要請」については、いずれも下請法(下請代金支払遅延等防止法)に規定があります。少し長いですが、以下に該当する4条を引用します。
親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、次の各号(役務提供委託をした場合にあつては、第一号及び第四号を除く。)に掲げる行為をしてはならない。
一 下請事業者の責に帰すべき理由がないのに、下請事業者の給付の受領を拒むこと。
二 下請代金をその支払期日の経過後なお支払わないこと。
三 下請事業者の責に帰すべき理由がないのに、下請代金の額を減ずること。
四 下請事業者の責に帰すべき理由がないのに、下請事業者の給付を受領した後、下請事業者にその給付に係る物を引き取らせること。
五 下請事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額を不当に定めること。
六 下請事業者の給付の内容を均質にし又はその改善を図るため必要がある場合その他正当な理由がある場合を除き、自己の指定する物を強制して購入させ、又は役務を強制して利用させること。
七 親事業者が第一号若しくは第二号に掲げる行為をしている場合若しくは第三号から前号までに掲げる行為をした場合又は親事業者について次項各号の一に該当する事実があると認められる場合に下請事業者が公正取引委員会又は中小企業庁長官に対しその事実を知らせたことを理由として、取引の数量を減じ、取引を停止し、その他不利益な取扱いをすること。
2 親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、次の各号(役務提供委託をした場合にあつては、第一号を除く。)に掲げる行為をすることによつて、下請事業者の利益を不当に害してはならない。
一 自己に対する給付に必要な半製品、部品、附属品又は原材料(以下「原材料等」という。)を自己から購入させた場合に、下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに、当該原材料等を用いる給付に対する下請代金の支払期日より早い時期に、支払うべき下請代金の額から当該原材料等の対価の全部若しくは一部を控除し、又は当該原材料等の対価の全部若しくは一部を支払わせること。
二 下請代金の支払につき、当該下請代金の支払期日までに一般の金融機関(預金又は貯金の受入れ及び資金の融通を業とする者をいう。)による割引を受けることが困難であると認められる手形を交付すること。
三 自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること。
四 下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに、下請事業者の給付の内容を変更させ、又は下請事業者の給付を受領した後に(役務提供委託の場合は、下請事業者がその委託を受けた役務の提供をした後に)給付をやり直させること。
「買いたたき」とは、「下請事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額を不当に定めること」(4条1項5号)をいいます。「通常支払われる対価」に比べて「著しく低い下請代金の額」を定めたり、下請代金の額を「不当に定めること」が禁止されています。公正取引委員会では、事業者間の十分な協議など対価の決定方法、対価の決定内容、「通常支払われる対価」との乖離状況、原材料等の価格動向などの要素から総合的に判断しています(「下請取引適正化推進講習会テキスト(令和6年11月版)」)。
「不当な経済上の利益の提供要請」とは、「自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること」(4条2項3号)をいいます。下請事業者が親事業者のために協賛金や従業員の派遣などの経済上の利益を提供させられることにより、下請事業者の利益が不当に害されることを防止するために設けられた規定です。下請事業者ごとに目標額や目標量を定めて金銭・労働力の提供を要請したり、要請に応じなければ不利益な取扱いをする旨を示唆して金銭・労働力の提供を要請することなども、不当な経済上の利益の提供要請に該当するおそれがあるとされます(同上)。
昨今は副業や兼業などが増加する一方、深刻な物価高騰や人手不足などの影響で倒産数が増えているなどの状況もあり、雇用によらない下請け契約による業務対応の方法についても、さまざまな課題やトラブルが顕在化する傾向にあります。公正取引委員会の勧告事例としては、KADOKAWAやビックモーターの例が記憶に新しいですが、業種業態や規模の大小を問わず、元請・下請間の取引にともなう法律関係の知識は不可欠だといえるでしょう。まずは上記の条文なども参照にして、広い意味での労務管理の観点からも、下請法の基本的な考え方に触れておきたいものです。
(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)