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2025年1月 9日

小岩広宣社労士の「人材サービスと労務の視点」260・2025年の労働法改正

Q 新たな年を迎えましたが、今年も企業経営に影響の大きい労働法をめぐる改正が続くといわれています。多様な働き方をめぐる動向なども気になりますが、2025年の労働法や社会保険の関係の改正の大まかな流れについて簡単にお教えください。

koiwa24.png 新年明けましておめでとうございます。昨年に引き続きこのコラムを執筆させていただく、社労士の小岩です。今年で6年目の担当となりますが、早いもので小学校にたとえると6年生になりますから、さらに緊張感をもってより有益な情報をお伝えできるように、取り組んでいきたいと思います。今年もタイムリーな改正情報や現場で役立つ労務管理の知識などを中心に、フレッシュな話題を私なりの切り口で分かりやすくお伝えしていきますので、引き続きよろしくお願いいたします。

 2025年も昨年に引き続き労働法や社会保障をめぐるさまざまな改正が予定され、また新たな改正への議論が深まることが予想されます。とりわけ企業実務への影響が大きいのは、育児休業給付や介護離職防止のための措置、高年齢雇用継続給付の見直し、障害者雇用をめぐる除外率の引き下げなど、育児、介護、高齢者、障害者に関する複雑かつ多岐にわたる改正となります。以下にすでに確定している2025年の主な改正点を整理し、主な内容をピックアップして解説します。

2025年
1月~
労働者死傷病報告などの電子申請義務化(安全衛生規則)
3歳に満たない子を養育する被保険者の標準報酬月額の特例申出の手続き簡素化(厚生年金法)
4月~ 育児休業給付の給付率の引き上げ、育児短時間就業給付の創設、3歳になるまでの子を養育する労働者の所定労働時間の短縮、プライバシーの配慮、残業免除対象となる労働者の範囲拡大、家族介護の労働者への個別の周知・雇用環境の整備(育児介護休業法)
高年齢雇用継続給付の給付率を15%から10%に引き下げ、自己都合退職者が一定の教育訓練などを受けた場合の給付制限の解除、出生後休業支援給付金、育児時短就業給付金の創設、保険料率の変更(雇用保険法)
一般事業主行動計画の仕組みの見直し、くるみん認定などの認定基準の見直し(次世代育成支援対策推進法)
障害者雇用調整金の単位調整額を2万7千円から2万9千円に引き上げ、除外率設定業種の除外率引き下げ、対象障害者雇用状況報告の事業主の範囲の見直し(障害者雇用促進法)
高年齢雇用継続給付と老齢厚生年金の併給調整の調整率の改定(厚生年金保険法)
10月~ 妊娠・出産の申出時、子が3歳になる前の仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取と配慮、柔軟な働き方を実現するための措置の制定(育児休業休業法)
教育訓練休暇給付金の創設(雇用保険法)
12月~ オーストリア協定締結による厚生年金の加入特例、審査請求の手続特例の対象追加(厚生年金法)


(1)労働者死傷病報告などの電子申請義務化
 労働者が労働災害などで死亡または休業したときは、所轄の労働基準監督署に労働者死傷病報告を提出しなければなりませんが(労働安全衛生規則97条)、1月1日から、電子申請が原則義務化されます。スマートフォンなどからでも電子申請が可能となるため、事業者の手間がかなり削減されますが、パソコンやスマートフォンが使えない場合には、労基署に配置されるタブレットでも電子申請が可能です。

 これまで自由記載であった、①事業の種類、②被災者の職種、③傷病名及び傷病部位、⑤国籍・地域及び在留資格については、該当するコードから選択できるようになり、よりスピーディーな対応ができるようになりました。また、④災害発生状況及び原因については、記入欄が5分割されたことで効率的な記載が可能となりました。

(2)高年齢雇用継続給付の支給率の改定
 高年齢雇用継続給付は、高年齢者の就業意欲の維持・喚起や企業の負担軽減などを目的とし、60歳以上65歳未満の一定の雇用保険の被保険者に給付金を支給する制度ですが、4月1日以降、支給率の変更が実施されます。具体的には、60歳に達した日が令和7年3月31日以前の場合は15%(従来の支給率)が、令和7年4月1日以降の場合は10%(変更後の支給率)が限度として支給されることになります。企業はさまざまな影響を受けることが予想されるため、契約社員やパートタイムといった多様な雇用形態を活用したり、労働者のスキルや経験に応じた柔軟な評価を行うことなどを通じて、仕事に対するモチベーションを高めることが必要だといえるでしょう。

(3)子の看護休暇等の変更など
 4月1日から育児・介護休業法の「子の看護休暇」の対象や事由などが変更され、従来は、「小学校就学の始期まで」であった対象となる子の範囲は、「小学校3年生修了まで」に延長、取得事由については、「病気や怪我、予防接種・健康診断」に加えて、「感染症による学級閉鎖」「入学(入園)式、卒園式」が追加されます。労使協定による除外については、①引き続き雇用された期間が6か月未満、②週所定労働日数が2日以下の要件のうち、②のみが除外可となります。また、残業免除の対象についても拡大され、従来は「3歳に満たない子を養育する労働者」が対象であったものが、改正後は「小学校就学前の子を療育する労働者」となります。さらに、「3歳に満たない子を養育する労働者」がテレワークを選択できる措置を講ずることが努力義務化され、短時間勤務制度を設けることが困難な場合の代替措置としてもテレワークが追加されることになります。

(4)出生後休業支援給付金・育児時短就業給付金の創設
 育児休業給付では、休業開始から180日目まで67%(手取りの8割相当)、180日経過後は50%が支給されていますが、4月1日より「出生後休業支援給付金」の上乗せが実施されます。出生後休業支援給付金は、子の出生直後の一定期間以内に夫婦双方が14日以上の育児休業を取得する場合に最大28日間、休業開始前賃金の13%相当額が支給され、育児休業給付と合わせて給付率は80%(手取りの10割相当)へと引き上げられることになります。「育児時短就業給付金」は、育児のために短時間勤務を選択し、賃金が低下した労働者に対する給付を目的として、2歳未満の子を養育するために時短勤務を行った場合、一定の要件を満たした場合に、時短勤務中に支払われた賃金の10%が支給されます。

 2025年は、少子高齢化のさらなる進展に直面する中で、国が目指す「共働き・共育て」型を軸とするダブルインカム社会の本格化に向けて、大きな一歩となる一年になるでしょう。そのための法整備の一環である、育児・介護関連の改正ラッシュが続くほか、高齢者や障害者をめぐる雇用の仕組みをめぐっても、めまぐるしく制度が変遷していくことになります。いわゆるマイナ保険証や賃金のデジタル払いなどの運用も確実に進み、AIの飛躍的な進化が労働環境に与える影響を肌感覚で認識させられるなど、人間がデジタル化やAI化といかに向き合うかが日常的なテーマになる時代が到来します。カスハラの法制化の議論を含めたハラスメントをめぐる社会的な価値観の変化は、さらに大きく働き方や労使関係のゆくえにも大きく根を下ろしていくでしょう。「年収の壁」をめぐって混沌とする政治の流れや国際的な先行き不透明感などもあいまって、これからの方向性をにらんで真剣な試行錯誤と直面する一年になるかもしれません。まずは日々の業務や生活と愚直に向き合いながら、これからの指針をたぐり寄せるための智慧と調和を共有していく年にしたいものです。

(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)

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