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2024年12月12日

小岩広宣社労士の「人材サービスと労務の視点」257・急性アルコール中毒の労災認定

Q 忘年会シーズンとなりましたが、急性アルコール中毒をめぐる労災認定としては、どのような事例があるのでしょうか。

koiwa24.png 年末年始を迎え、忘年会や新年会などの席も増えることから、アルコールをめぐるトラブルも少なくありません。通常の企業における労災認定の考え方としては、会社側の幹事役など、業務の一環として従事する立場の人以外は、対象とはならないというのが一般的ですが、これが顧客に飲食などを提供する側における判断となると、どうなのでしょうか。飲食店や接客業にもさまざまな形態がありますが、たとえばクラブやラウンジなどにおいては、業務上大量の飲酒をともなう例も少なくなく、場合によっては急性アルコール中毒を発症してしまうようなこともあります。

 急性アルコール中毒の業務起因性をめぐる労災不支給処分の取消請求事件としては、国・大阪中央労基署長(ダイヤモンド株式会社)事件(大阪地判、令和1年5月29日)があります。ホストクラブに勤務するホストの急性アルコール中毒による死亡をめぐる労災請求について、労基署による不支給処分の取消しを求めて提訴したところ、裁判所は原告の訴えを認め、労災不支給処分の取り消しを命じた事件です。

 裁判所は、ホストの接客業務に関連・付随した飲酒の強要に対して、事実上飲酒を拒否できない立場にあった原告が急性アルコール中毒を発症して死亡するに至ったと認め、業務に内在・通常随伴する危険が現実化したことによる結果と評価しました。原告は、職場において先輩などからからかいの対象とされていたものの、暴力的で執拗ないじめを行うだけの人間関係や動機の存在は認め難く、個人的な恨みや憎しみを抱いていたとは考えにくいことから、業務と急性アルコール中毒発症との間に相当因果関係(業務起因性)があったと認めるのが相当と判断されました。

 あくまで個別の事案における裁判所の判断ですが、飲酒をともなう接客業務における具体的な事例として、ひとつの参考にできる事案だと思われます。時節がら飲酒の機会も増える時期となりますが、楽しいはずの飲酒も度を越してしまうと深刻な労災事案にもなりかねないケースもあることも片隅においておきたいものです。

(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)

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