Q ジェンダーギャップが顕著だとされている我が国は、同時に男性の幸福度が低い国ともいわれます。男性ゆえの"生きづらさ""有害な男らしさ"とは、どのような状況のことを指すのでしょうか。
A 「ジェンダーギャップリポート」(世界経済フォーラム)では、日本は146カ国中118位とされ(2024年)、国際的にもジェンダーギャップが顕著な国とされています。ところが、同時に男性の幸福度指数が著しく低い国だということは、意外にもあまり知られていないかもしれません。OECDの「幸福度白書」によると、日本は主要国で唯一、男性の方が女性よりもネガティブな感情バランスを感じることが多い国とされます(OECD(国際協力開発機構)の幸福度調査の最新版(How's Life 2024))。「男らしさに関する意識調査」(電通総研、2021年)でも、「最近は男性のほうが女性よりも生きづらくなってきていると思う」と回答した人の割合はすべての世代で過半数を占めています。
男性学という学問分野があります。男性が抱える悩みや問題を扱う学問ですが、男性学の代表的な研究者である、オーストラリアの社会学者、レイウィン・コンネル氏は、従来は支配する性である男性、支配される性である女性の構図で描かれてきたジェンダーについて、"男性の複数性"という概念を打ち立てました。男性社会には、「覇権的男性性」と「従属的男性性」があり、地位や報酬や名誉を手にした男性(覇権的男性性)が、高いポジションを手にできない男性(従属的男性性)を支配する構図にあるといいます。「男らしさ」を体現するマジョリティ男性(覇権的男性性)は、あまり「男らしさ」を発揮しないマイノリティ男性(従属的男性性)を支配することで、女性に対する優越性が強化され、相対的により優位なポジションを誇示するという構図です。
労務管理をめぐる「男らしさ」との関係は、どのように位置づけられるのでしょうか。男性ばかりが占める経営者や幹部における体育会系の"マッチョな"文化・気質が支配する光景は、女性たちの活躍が十分に実現していないという面に加えて、男性社会の内部においても、マジョリティとマイノリティとの間における緊張関係があることの表われだととらえることができるでしょう。従来は男性にはもっぱら「男らしさ」が求められる場面が多かったといえますが、男女が等しい関係で能力を発揮しあうことが当たり前の時代の中で、行き過ぎた「男らしさ」への懸念の目が注がれるのが現在です。男性社会内部での階層性や生きづらさが抱えるリアルな問題は、企業におけるこれからの服務規律や職場風土などを考える上でも欠かせない視点だといえるでしょう。
「男の生きづらさ」は、「男の誇り」や「生きがい」と裏表の関係にあることから、なかなか可視化されにくいテーマです。企業の対応としては、男性にも女性と同じようにそもそも幅広い多様性があるのが当たり前という認識のもとに、「マジョリティの中のマイノリティ」が見えないところで苦しんではいないかという視点から、服務規律や企業風土、今までの慣例などをフラットな目線でチェックしていくことが求められるでしょう。このような視点は、採用や定着をめぐってさまざまな工夫が必要なZ世代を始めとする若い従業員と向き合う際にも、ポイントになっていくのではないかと思います。
(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)