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2024年11月14日

小岩広宣社労士の「人材サービスと労務の視点」253・「103万円の壁」と「106万円の壁」

Q 最近話題になっている、「103万円の壁」と「106万円の壁」の違いについてお教えください。

koiwa24.png このところ、毎日のように「年収の壁」が話題になっています。政治の世界でも年収の壁をめぐる議論が本格化し、今後の制度改正や運用の見直しなどの実施によっては、実務への影響も小さくないと予想されます。連載251回では、「103万円の壁」「130万円の壁」の経緯について触れましたが、あわせて「106万円の壁」も大きなテーマとなっています。「年収の壁」には、税金に関わる壁と社会保険に関わる壁があり、概略は以下のように理解することができます。

・税金に関わる壁

100万円の壁 住民税の支払いが発生する年収
(自治体によって金額基準が異なる)
103万円の壁 所得税の支払いが発生する年収
150万円の壁
201万円の壁
配偶者の所得控除に関係する年収の額
(配偶者控除、配偶者特別控除)

・社会保険に関わる壁

106万円の壁 従業員51人以上の会社で社会保険への加入義務が発生する年収
(*月額賃金8.8万円≒年収約106万円、週労働時間が20時間以上)
130万円の壁 国民健康保険や国民年金の保険料の支払いが発生する年収


 「103万円の壁」は、基礎控除48万円と給与所得控除55万円の合計の103万円を超えると所得税が発生するため、住民税も含めた本人の税負担が発生・増加することや、配偶者控除の適用によって、配偶者が納付する税金にも影響が出ることから、多くのパートタイマーや学生アルバイトが年収103万円を超えない範囲で働くことを希望する「働き控え」が社会的な問題となっています。実際に年末に向けて就業調整に入らざるを得ないことが、多くのパートタイマーやアルバイトなどを抱える企業経営の現場を直撃していることから、具体的な解消や改善が大きな政策的なテーマにもなっています。

 「106万円の壁」については、先日、厚生労働省は、短時間労働者が加入する厚生年金の要件を「労働時間週20時間以上」に一本化し、企業規模に関する要件もなくして50人以下の企業も対象に加えることを盛り込んだ公的年金の制度改正関連法案を来年の通常国会に提出し、早期の導入を目指すという報道がありました。

 急遽このような方針が示された背景には、最低賃金の引き上げによって時給水準が1016円以上となると(現在12都府県が該当)、週20時間稼働することで「月額8万8000円以上」とする賃金要件が事実上解消されてしまうため、残る35道県でもさらなる最賃の引き上げが実施されると、来年にもすべての都道府県で1016円以上に達することで、賃金要件が事実上撤廃されることが見込まれる実態があります。

 厚生労働省は、「50人以下」の企業規模の要件や、個人経営かつ常時5人以上従業員を使用していても適用事業所とならない法定16業種も撤廃する方向を打ち出しています。この流れが実施されると、3号被保険者だった人が新たに2号被保険者になることで新たに保険料負担の問題が生じ、そうした従業員の社会保険料の事業主負担分を納付している企業の法定福利費が大幅に増加することで、経営の現場にも深刻な影響が出ることにもなります。

 「103万円の壁」「106万円」ともに、具体的にはこれからの国会における議論の進捗や政府がまとめる政策のゆくえにかかっているといえますが、衆院において少数与党となった政権の政策決定には先行き不透明な要素が少なくなく、現段階で来年以降の方向を見定めるのは困難だといえます。実務の視点からは、こうした「年収の壁」をめぐる政策がいつ実施されたとしても、混乱なく現場対応するための情報整理や準備に心掛けたいものです。


(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)

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