Q 最近、労基署による同一労働同一賃金についての行政指導が増えていると聞きました。具体的な内容についてお教えください。
A パートタイム・有期雇用労働法(2021年4月1日より全面施行)、労働者派遣法(2020年4月1日より施行)により、いわゆる正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者)と非正規雇用労働者(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者)との間の不合理な待遇差の解消が目標とされ、どのような雇用形態を選択しても納得が得られる処遇を受けられ、多様な働き方を自由に選択できる雇用社会の実現が目指されています。このような政策の推進にあたっては、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)が担当部局とされ、各地域の雇用を取り巻く実情に応じた助言や是正指導が行われてきました。
労働基準監督官の役割は、労働基準関係法令に定める労働条件や安全衛生の基準を事業主が遵守するよう必要な指導を行い、労働条件の確保や向上、労働者の安全や健康の確保を図ることにあります。したがって、本来労使対等の原則に基づいて労働者と使用者が対等の立場において決定すべき賃金の内容については、最低賃金法の水準を上回る限りにおいては、監督官の指導監督の対象外とされ、基本的には労使による自主的な交渉等による決定が尊重されてきたのが実際です。
ところが、令和4年12月からは同一労働同一賃金の施行について、労働局が新たに労働基準監督署と連携して遵守を徹底するとともに、働き方改革推進支援センターによるコンサルティング等を活用して、非正規雇用労働者の待遇改善を支援する取り組みが開始され、実質的に監督官の役割や機能が変化する中で、事業主に対する指導監督が行われています。
2023年6月の閣議決定(新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画)では、「同一労働・同一賃金制の施行は全国47か所の都道府県労働局が実施している。全国に321署ある労働基準監督署には指導・助言の権限がない」とされていたものが、2024年6月の閣議決定では、「非正規雇用労働者の処遇を上げていくためには、同一労働・同一賃金制の徹底した施行が不可欠である。この面においても、労働基準監督署が施行の徹底を図っていく」と述べられていることへの変化が顕著に読み取れます。
令和6年度の地方労働行政運営方針では、監督署による定期監督等において、監督官が同一労働同一賃金に関する確認を行い、事業主に対する点検要請を集中的に実施することがうたわれ、監督官が定期監督等で事業場を訪問した際に、同一労働同一賃金に関するチェックリストの配布及び回収を行うことを通じて、同一労働同一賃金の遵守徹底を図っていくことが目指されています。
実際に、同一労働同一賃金の指導状況については、令和4年度の報告徴収実施件数が3498件、是正指導実施件数が2466件なのに対して、令和5年度(11月までの速報値)では、報告実施件数が7983件、是正指導実施件数が5884件といずれもほぼ倍増しており、令和4年12月に同一労働同一賃金における監督官の役割が見直されて以降の報告、是正指導への影響の大きさを見ることができます。
現在においては、監督署による定期監督等においても、同一労働同一賃金の実施状況の確認などが広範にテーマとされている現実を認識するとともに、各都道府県に設置されている働き方改革推進支援センター等が実施する施策等を有効に活用することも含めて、企業の自主的取り組みとして同一労働同一賃金の推進を積極的に進めていきたいものです。
(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)