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2024年10月31日

小岩広宣社労士の「人材サービスと労務の視点」251・「103万円の壁」「130万円の壁」の歴史

Q いわゆる「103万円の壁」「130万円の壁」の歴史について、お教えください。

koiwa24.png 最近、「103万円の壁」「130万円の壁」が話題になることが多くなってきました。国からも「年収の壁」へのさまざまな対策が打ち出されており、国政選挙での争点のひとつにもなりました。そもそも、これらの「壁」は、どのような歴史や経過をたどっているのでしょうか。

 「103万円の壁」は、所得税の基礎控除(48万円)と給与所得控除の最低保障額(55万円)の合計額であり、この金額を超えると所得税がかかるボーダーラインです。1995年にそれまでの100万円から103万に引き上げられて以来据え置かれており、2020年に基礎控除が10万円引き上げられた際も、同時に給与所得控除の最低保障額が10万円減らされたため、103万円の合計額は変わりません。ちなみに、1995年以前については、1984~88年は90万円(33万円+57万円)、1989~94年は100万円(35万円+65万円)に設定されていた経緯があり、必ずしも長期的に固定されていたわけではないことが知られます。

 「130万円の壁」については、かつて「収入がある者についての被扶養者認定について」(昭和52年4月6日、保発第9号・庁保発第9号)によって、被扶養者になれる妻の年収は70万円未満、夫の年収の2分の1未満とされ、その後、80万円、90万、100万円と段階的に引き上げられ、1993年に130万に固定化されました。この基準は、1986年までは所得税の控除対象配偶者収入限度額に連動して改定され、1987年以降は所得税との連動をやめ、被扶養者の適用を維持するという考え方から所得水準の伸びに応じた改定を行ってきましたが(「短時間労働者への社会保険適用拡大について」平成23年12月5日、厚生労働省保険局)、1993年以降130万円の年収基準は変更されていません。

 今は「103万円の壁」「130万円の壁」について、見直しも含めたさまざまな議論が行われていますが、そもそも「男性=仕事中心、女性=家庭中心」という昭和的なジェンダーロールをある種の前提として実施されてきた制度であり、雇用や経済を取り巻く構造が大きく変わっている時代に対応しにくくなってきている面があるのは否めません。物価の高騰や最低賃金の引き上げ、社会保険の適用拡大の動向などを踏まえるならば、基準額の引き上げに向けた動きが加速することが十分に考えられると思います。企業における実務の視点からも、過去の制度の変遷などにも目配りしつつ、これからの変化を見据えていきたいものです。

(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)

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