Q いわゆる「シフト制」で就労する労働者の雇用管理については、どのような点に留意すべきでしょうか。
A 労働契約の締結時点では労働日や労働時間を確定的に定めず、1週間、1か月など一定期間ごとに作成される勤務シフトなどによって、具体的な労働日や労働時間が確定するような勤務形態のことを、一般的に「シフト制」といいます。
前回に触れた、社会保険の扶養範囲内での就労を希望するパートタイマーへの対応にあたっても、130万円の壁との兼ね合いで就労制限を行う方法のひとつとして、固定的な就業条件の見直しが困難であったり、より弾力的な運用をはかりたい場合には、シフト制が採用されることになります。
シフト制で就労する労働者の労務管理をめぐっては、令和4年1月7日に厚生労働省から「いわゆる『シフト制』により就業する労働者の適切な雇用管理を行うための留意事項」が発出されています。
いわゆる「シフト制」により就業する労働者の適切な雇用管理を行うための留意事項(令和4年1月7日、厚生労働省)
「留意事項」では、以下の点について、具体的な実務上の取り扱いが整理されています。
2 シフト制労働契約に関する留意事項
(1)労働契約とは
(2)労働契約の締結
ア 労働契約の締結時に明示すべき労働条件
イ 就業規則に規定すべき事項
ウ 労働契約に定めることが考えられる事項
エ 労働契約の確認
(3)労働者の安全と健康の確保
(4)労働者を実際に労働させるに当たっての労働時間等の扱い
ア 労働時間
イ 休憩
ウ 年次有給休暇
エ 休業
(5)その他
ア 労働契約の終了
イ 期間の定めのない労働契約への転換
ウ 不合理な待遇差の禁止
3 労働者の募集等
4 その他
(1)シフト制に関するご相談
(2)社会保険、労働保険の加入等
ア 労災保険
イ 雇用保険
ウ 健康保険・厚生年金保険
労働契約を締結する際の留意点としては、始業・終業時刻や休日について「シフトによる」と記載するだけでなく、原則的な始業・終業時刻や休日の設定の考え方を記載したり、最初の期間のシフト表を渡したりするほか、労働者の希望に応じて、シフトが入る可能性のある最大の日数や時間数、目安の日数や時間数、最低限の日数や時間数を定めたり、事前に労働者の意見を聞く作成ルール、労働者への通知期限や方法、シフトの変更を申し出る場合の期限や手続、労働日をキャンセルする場合の期限や手続を設けることなどが挙げられます。
社会保険の適用にあたっては、1週間の所定労働時間が労働契約書等で定められている場合はそれに基づいて判断し、シフトが直前でないと判明しない場合や契約内容と実際の勤務時間に乖離がある場合は、実際の勤務時間に基づいて平均の労働時間を算定することとされているため、シフト制の運用をめぐる明確なルールや取り扱いが、社会保険の実務上もとても重要となります。要件を満たすシフト制で就業する労働者を適切に社会保険に適用するためにも、「留意事項」で触れられた事項について確実に整理しておきたいものです。
(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)