Q 女性の出産後の働き方やライフスタイルによる所得の変化について、分かりやすく試算したデータがあれば教えてください。
A 今年も最低賃金が10月1日から順次引き上げられ、全国平均の引き上げ額は過去最大の51円、時給平均は1055円となります。最低賃金の引き上げは、労働者の生活保障という意味では前向きに評価できることであり、多くの中小零細企業では、厳しい経営環境の中で経営努力を重ねて賃金の引き上げをはかっていますが、10月以降、さらに時給が上がることで、いわゆる「年収の壁」との兼ね合いで就業制限せざるを得なかったり、稼働日数との兼ね合いで実質的に時給の上げ幅が硬直的になるなどの課題も浮き彫りになっています。女性のライフスタイル、とりわけ出産後の働き方の変化は、労働者本人や家族にとって大きな分岐点になるのみならず、企業側としても労働者の個別事情に配慮したきめ細かな対応が求められる時代だといえるでしょう。
それでは、女性の出産後の働き方やライフスタイルによる所得の変化について、どのような試算データがあるのでしょうか。6月5日に内閣府政策統括官(経済財政分析担当)がまとめた、女性の職業生活における活躍推進プロジェクトチーム(第4回)における「女性の出産後の働き方による世帯の生涯可処分所得の変化(試算)」では、夫婦と子ども2人の世帯について、出産後も就労を継続する場合(正社員、非正規)、出産後一定期間で復職する場合(正社員、「年収の壁」範囲内、「年収の壁」超え)、出産後に退職する場合の6ケースを仮定して、世帯の生涯可処分所得を試算しています。
(試算)
これによると、正社員として就労を継続する場合、再就職しない場合(いわゆる専業主婦)と比べて、税・社会保険料支払い後の世帯の生涯可処分所得は、約1.7億円多いという試算となっており、女性の出産後の働き方が世帯の生涯可処分所得にもたらす影響の大きさが示される結果となっています。また、出産後にパートタイムとして復職した場合、「年収の壁」を超えて年収150万円で働くと、就業期間中の給与所得の増加に加え、退職後の年金所得の増加により、「年収の壁」内で働く場合と比べて、世帯の生涯可処分所得は合計1200万円増加し、時給増によってさらに所得が増える可能性があるという試算についても、非常に示唆に富んでいるといえます。
今は政府が示す白書などの書きぶりにも見られるように、従来の「男性=仕事」「女性=子育て・家事」という役割分担の時代が終わって、新たなロールモデルに向けた転換期にあるといえますが、ここで示されている具体的な数字を交えた試算は、出産後の働き方について迷う労働者や家族はもとより、企業の労務管理の担当者や経営陣にとっても、今後の雇用をめぐる対応や労務管理と向き合う上で有益な視点のひとつとなり得るでしょう。
(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)