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2024年9月26日

小岩広宣社労士の「人材サービスと労務の視点」246・フリーランス・事業者間取引適正化等法⑧

Q フリーランス新法で定められた「中途解除等の事前予告・理由開示義務」とは、どのような内容なのでしょうか。

 令和6年11月1日から施行されるフリーランス・事業者間取引適正化等法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)では、第16条で「中途解除等の事前予告・理由開示義務」(解除等の予告)について定められています。

(解除等の予告)
第16条 特定業務委託事業者は、継続的業務委託に係る契約の解除(契約期間の満了後に更新しない場合を含む。次項において同じ。)をしようとする場合には、当該契約の相手方である特定受託事業者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、少なくとも30日前までに、その予告をしなければならない。ただし、災害その他やむを得ない事由により予告することが困難な場合その他の厚生労働省令で定める場合は、この限りでない。
2 特定受託事業者が、前項の予告がされた日から同項の契約が満了する日までの間において、契約の解除の理由の開示を特定業務委託事業者に請求した場合には、当該特定業務委託事業者は、当該特定受託事業者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、遅滞なくこれを開示しなければならない。ただし、第三者の利益を害するおそれがある場合その他の厚生労働省令で定める場合は、この限りでない。

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 この規定は、一定の要件に該当するフリーランスについて、発注事業者が契約の解除または不更新をしようとする場合には、解除日または契約満了日から30日前までにその旨を予告しなければならないとする義務を発注事業者に課するものです。事業者と労働契約を締結する労働者については、「有期労働契約の締結、更新、雇い止め等に関する基準」によって、有期労働契約を更新しない場合には、少なくとも契約の期間が満了する日の30日前までに、その予告をしなければならないとするルールが課せられていますが、フリーランスはその保護の対象外とされているため、民法上の取引原則から契約の解除や不更新は原則自由であり、実際には取引上の力関係が強い発注事業者の恣意によって解除や不更新が行われるケースが多いことから、継続して誠実に業務活動に従事してきたにも関わらず、不意の契約解除や不更新に直面して経営難や経済的困窮に陥るフリーランスが散見される現状への対応として、今回の規定が設けられました。

 事前予告義務の対象となる業務委託は、以下の2つの要件を両方満たすものとなります。

(1)「6か月以上」の期間で行う業務委託に該当すること ・「6か月以上」には、契約更新により6か月以上継続して行うこととなる業務委託を含み、基本契約を締結している場合は、個別契約ではなく基本契約をもとに期間を判断。
(2)契約の解除または不更新に該当すること ・「契約の解除」は、発注事業者からの一方的な契約の解除を指し、フリーランスからの解除は含まない。合意による解除の場合も「契約の解除」に該当するが、フリーランスの自由な意思に基づくものであることが必要。
・「契約の不更新」は、契約更新がなされ、またはなされることが想定されるにも関わらず、発注事業者が不更新をしようとする意思を持って、契約満了日から起算して1か月以内に次の契約を締結しない場合。


 上記に該当する場合には、発注事業者は、フリーランスに対して、解除日または契約満了日から30日前までに解除または更新しない旨の予告を行うことが必要となります。このような予告を受けて、フリーランスは計画的に次の業務委託に向けた準備をしていくことで、継続的な事業活動を目指していくことができるようになります。

 また、フリーランスが、契約解除の予告から契約満了するまでの間に、「解除の理由」を請求した場合には、発注事業者は、原則として遅滞なく開示しなければなりません。①書面の交付、②ファックス、③電子メール等(SMSやSNSのメッセージ機能も含む)のいずれかの方法で行うことになりますが、理由については「委託業務の終了」や「関係部門の縮小」といった内容でも差し支えないと考えられます。

 今後は、フリーランスにも労働法の解雇(契約解除)制限に準じた対応をしていくことが求められることになり、従来のような労働者(直接雇用)と外注(委託契約など)とに分類した労務管理(取引先対応)には、一定の実務上の修正を加えていく必要があります。あらかじめ施行の内容を確実に押さえた上で、必要な対応を確実に行っていきたいものです。

(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)

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