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2024年9月19日

小岩広宣社労士の「人材サービスと労務の視点」245・フリーランス・事業者間取引適正化等法⑦

Q フリーランス新法で定められた「ハラスメント対策に係る体制整備義務」とは、どのような内容なのでしょうか。

koiwa24.png 令和6年11月1日から施行されるフリーランス・事業者間取引適正化等法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)では、第14条で「ハラスメント対策に係る体制整備義務」(業務委託に関して行われる言動に起因する問題に関して講ずべき措置等)について定められています。

(業務委託に関して行われる言動に起因する問題に関して講ずべき措置等)
第14条 特定業務委託事業者は、その行う業務委託に係る特定受託業務従事者に対し当該業務委託に関して行われる次の各号に規定する言動により、当該各号に掲げる状況に至ることのないよう、その者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置を講じなければならない。
1 性的な言動に対する特定受託業務従事者の対応によりその者(その者が第2条第1項第2号に掲げる法人の代表者である場合にあっては、当該法人)に係る業務委託の条件について不利益を与え、又は性的な言動により特定受託業務従事者の就業環境を害すること。
2 特定受託業務従事者の妊娠又は出産に関する事由であって厚生労働省令で定めるものに関する言動によりその者の就業環境を害すること。
3 取引上の優越的な関係を背景とした言動であって業務委託に係る業務を遂行する上で必要かつ相当な範囲を超えたものにより特定受託業務従事者の就業環境を害すること。
(以下略)


 この規定は、ハラスメント行為などによってフリーランスの就業環境が害されることを防ぐための体制の整備を発注事業者に課するものです。男女雇用機会均等法やパワハラ防止法による施策や規定は労働者を対象としており、あくまで事業者であるフリーランスはその保護の対象外とされていますが、就業の現場において労働者と同様のハラスメントに直面するフリーランスへの配慮を求める声や、カスタマーハラスメントへの法的規制などをめぐる議論など社会的な意識の高まりなどの時代の要請を受けて、今回の規定が設けられました。

 フリーランスに対するハラスメントの類型としては、(1)セクハラ(
セクシュアルハラスメント)、(2)マタハラ(妊娠・出産等に関するハラスメント)、(3)パワハラ(パワーハラスメント)が挙げられますが、いずれも、相談対応のための体制の整備その他の必要な措置を講じなければならず、フリーランスがそうした制度を利用して相談を行ったことなどを理由として不利益な取扱いをしてはならないとされています。

 具体的に発注事業者が講ずべき措置は、以下の4点です。

(1)ハラスメントを行ってはならない旨の方針の明確化、方針の周知・啓発 ・発注事業者の方針などの明確化と社内への周知・啓発(ホームページ、研修の実施など)
・ハラスメント行為者に対する厳正な対処方針の就業規則(懲戒規定)などへの規定
(2)相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備 ・相談窓口の設置、フリーランスへの周知(外部機関への相談対応の委託、フリーランスへの相談窓口の案内など)
・相談窓口担当者による相談への適切な対応(担当者向けマニュアルの作成など)
(3)業務委託におけるハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応 ・事案について事実関係を迅速かつ正確に把握(相談者と行為者の双方、必要に応じて第三者から聴取)
・事実関係の確認ができた場合、速やかに被害者に対する配慮のための措置を適正に実施(関係改善に向けた援助、取引条件上の不利益の回復など)
・行為者に対する措置の適正な実施(業務委託におけるハラスメント規定などに基づき、必要な懲戒その他の措置)
・ハラスメントに関する方針の再周知・啓発など再発防止に向けた措置(従業員に対する研修、講習など実施など)
(4)併せて講ずべき措置 ・(1)~(3)の対応に当たり、相談者・行為者などのプライバシーの保護に必要な措置を講じ、従業員およびフリーランスに対して周知
・フリーランスが相談したこと、事実関係の確認などに協力したこと、労働局などに対して申出をし、適当な措置を求めたことを理由に契約の解除などの不利益な取扱いをされない旨を定め、フリーランスに周知・啓発


 発注事業者としては、(1)方針の明確化・周知→(2)相談窓口の設置→(3)適切な事後対応→(4)プライバシー保護・不利益取り扱いの禁止の流れを構築する必要がありますが、施行に向けてまず実施しなければならない点としては、(1)のホームページ掲載、研修の実施、就業規則への規定、(2)の相談窓口の設置・運用が挙げられます。自社の具体的な取り組みの方向を見定めた上で、これらの点の確実な実施を期していきたいものです。

 また、発注事業者が行うことが望ましい取り組みとしては、現にフリーランスとして契約している者だけではなく、今後の契約に向けて交渉中の者に対しても、(1)と同様の方針を示し、当事者から相談があった場合には(1)~(4)の措置について必要に応じて適切な対応を行うよう努めることが求められます。元委託事業者の事業所で就業する場合においても、元委託事業者にフリーランスに対するハラスメント対策の重要性への理解を求め、取引事業者間で連携して対策を行うことが求められる点にも留意したいものです。


(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)

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