Q フリーランス新法で定められた「育児介護等と業務の両立に対する配慮義務」とは、どのような内容なのでしょうか。
A 令和6年11月1日から施行されるフリーランス・事業者間取引適正化等法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)では、第13条で「育児介護等と業務の両立に対する配慮義務」(妊娠、出産若しくは育児又は介護に対する配慮)について定められています。
この規定は、6か月以上の期間の業務委託を行なっているフリーランスが、育児介護等と業務とを両立させることを目的とした配慮義務を発注事業者に課すものです。育児介護休業法のたび重なる改正による制度拡充や男性育休の普及などの時流の中で、労働者としての法的保護を受けないフリーランスへの配慮を求める声の広がりなどを受けて、このような規定が設けられました。6か月以上の期間で行う業務委託について、フリーランスが妊娠、出産、育児または介護(育児介護等)と業務を両立できるように必要な配慮義務が課され、6か月未満の期間で行う業務委託については、必要な配慮をするよう努めなければならないとされています。
なお、法律の規定における「義務」には、①法的拘束力や罰則をともなう「措置義務」、②拘束力や罰則はないものの、実施の可否や方法等について何らかのアクションをしなければならない「配慮義務」、③法的拘束力や罰則はなく、当事者の判断によって遵守する程度が決まる「努力義務」の3種類がありますが、この規定は②の「配慮義務」となります。発注事業者は、フリーランスからの申し出があった場合には、以下の(1)~(3)の配慮を行わなければなりません。
(1)申し出の内容等の把握 | フリーランスから申し出があった場合には、その内容を十分に把握することが必要であり、申し出があったにも関わらず、フリーランスの申し出内容を無視することはできません。 |
(2)取り得る選択肢の検討 | フリーランスの希望する配慮や、取り得る対応を十分に検討することが必要であり、申し出のあった配慮について実施可能かどうかをまったく検討しないことはできません。 |
(3)配慮の内容の伝達 ・実施 配慮不実施の伝達 ・理由の説明 | ①業務の性質・実施体制等を踏まえると難しい場合、②配慮を行うと業務のほとんどができない等契約目的の達成が困難な場合など、やむを得ず必要な配慮を行うことができない場合には、不実施の旨を伝達し、その理由について、必要に応じ、書面の交付・電子メールの送付等により分かりやすく説明しなければなりません。 |
(1)フリーランスからの申し出→(2)実施可能な選択肢の検討→(3)検討結果の伝達・実施(理由の説明)という流れとなっていますので、まずはフリーランスが発注事業者に対して申し出がしやすい環境整備をはかることが重要です。具体的には、フリーランスに対して配慮の申し出が可能であることを周知した上で、発注事業者における窓口や担当者、申し出の手続等を示すことが必要となります。事業者間の日常的なやりとりの中で周知をはかるほか、取引関係においてあらかじめ窓口・手続等の概要を共有しておくことが妥当だといえるでしょう。
フリーランスはこのような申し出の内容として、納期の変更やオンラインへの切り替えなどの配慮を求めることができますが、発注事業者は必ずしもそれらのすべてに対応する法的義務はありません。しかし、発注事業者は、具体的に取り得る選択肢について検討し、やむを得ず必要な配慮を行うことができない場合であっても、不実施の旨やその理由について説明しなければならないことから、発注事業者の担当者は今回の改正内容を熟知するとともに、申し出を受けた場合の具体的な実務フローを準備しておくことが求められるでしょう。
また、申し出の手続に膨大な資料の提出を課すなど故意にフリーランスに過重な負担を求めたり、フリーランスが配慮を受けたことを理由として業務量に相当する分を超えて報酬を減額するなどの対応を行うなどの行為は、「発注事業者による望ましくない取り扱い」とされていますので、フリーランスと発注事業者との間の健全な関係性の維持・確保に照らして、十分に認識を共有していきたいものです。
(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)