Q フリーランス新法で定められた「発注事業者の禁止行為」とは、どのような内容なのでしょうか。
A 令和6年11月1日から施行されるフリーランス・事業者間取引適正化等法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)では、第5条で「発注事業者の禁止行為」(特定業務委託事業者の遵守事項)について定められています。
第5条 特定業務委託事業者は、特定受託事業者に対し業務委託(政令で定める期間以上の期間行うもの(当該業務委託に係る契約の更新により当該政令で定める期間以上継続して行うこととなるものを含む。)に限る。以下この条において同じ。)をした場合は、次に掲げる行為(第2条第3項第2号に該当する業務委託をした場合にあっては、第1号及び第3号に掲げる行為を除く。)をしてはならない。
1 特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、特定受託事業者の給付の受領を拒むこと。
2 特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、報酬の額を減ずること。
3 特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、特定受託事業者の給付を受領した後、特定受託事業者にその給付に係る物を引き取らせること。
4 特定受託事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い報酬の額を不当に定めること。
5 特定受託事業者の給付の内容を均質にし、又はその改善を図るため必要がある場合その他正当な理由がある場合を除き、自己の指定する物を強制して購入させ、又は役務を強制して利用させること。(以下略)
フリーランスに対して「1か月以上」の業務委託をしている発注事業者は、以下の「7つの禁止行為」に触れないようにしなければなりません。たとえ事前にフリーランスの了解や合意を得ていたとしても遵守しなければならず、発注事業者に違法性の認識がなかったとしても同様です。なお、業務委託契約の「1か月以上」の判断については、原則として、契約の締結日から終了日までとなりますが、契約更新の場合には、最初の業務委託の始期から、最後の業務委託の終期までとなります。
7つの禁止行為
①受領拒否 | フリーランスに責任がないのに、委託した物品や情報成果物の受け取りを拒んだり、発注事業者の一方的な都合による発注取り消し、納期の延期などをすること。 |
②報酬の減額 | フリーランスに責任がないのに、業務委託時に定めた報酬の額を、後から減らして支払うこと。 |
③返品 | フリーランスに責任がないのに、物品や情報成果物を受領後に引き取らせること。不良品などがあった場合は、受領後6か月以内に限って返品が認められる。 |
④買いたたき | フリーランスに委託する物品などに対して、通常支払われる対価に比べ著しく低い報酬の額を定めること。 |
⑤購入・利用強制 | フリーランスに委託した物品などの品質の維持、改善などの正当な理由がないのに、発注事業者が指定する物や役務を強制して購入、利用させること。 |
⑥不当な経済上の利益の提供要請 | フリーランスに対して、発注事業者が自己のために、金銭、役務、その他の経済上の利益を提供させることによって、フリーランスの利益を不当に害すること。 |
⑦不当な給付内容の変更・やり直し | フリーランスに責任がないのに、費用を負担せずに、フリーランスの給付の内容を変更させたり、フリーランスの給付を受領した後に給付をやり直させたりして、フリーランスの利益を不当に害すること。 |
一般的には、②報酬の減額、③返品などが問題となりやすいといえますが、④買いたたきにも、注意が必要です。買いたたきについては、外形上、自由な価格交渉による結果かどうかが分かりにくく、業種業態による特殊事情などが反映される事例も少なくないことから、フリーランスと十分な協議や、「通常支払われる対価」と実際の金額(対価)との乖離、原材料などの価格動向などを勘案して、総合的に判断するものとされています。買いたたきの可能性を指摘されないためにも、これらの点についていつでも具体的に説明できる流れをつくっておく必要があるといえるでしょう。
また、⑤購入・利用強制については、明らかな意図を持って発注事業者がフリーランスに対して購入や利用を強制していないケースであったとしても、両者の取引上の力関係からみて、事実上、フリーランスが依頼を拒否できないと考えられるような場合は、発注事業者に強制の認識がなかったとしても、購入・利用強制に該当することになりますので注意したいものです。何らかの事情によって、フリーランスに物品の購入や役務の利用などを求める場合には、あらかじめ契約時などに、書面でその具体的な目的や内容を確実に説明し、合意を得ておくことが望ましいといえるでしょう。
(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)