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2024年8月22日

小岩広宣社労士の「人材サービスと労務の視点」241・フリーランス・事業者間取引適正化等法③

Q フリーランス新法で定められた「期日における報酬支払義務」とは、どのような内容なのでしょうか。

 令和6年11月1日から施行されるフリーランス・事業者間取引適正化等法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)では、第4条で「期日における報酬支払義務」(報酬の支払期日等)について定められています。

(報酬の支払期日等)
第4条 特定業務委託事業者が特定受託事業者に対し業務委託をした場合における報酬の支払期日は、当該特定業務委託事業者が特定受託事業者の給付の内容について検査をするかどうかを問わず、当該特定業務委託事業者が特定受託事業者の給付を受領した日(第2条第3項第2号に該当する業務委託をした場合にあっては、特定受託事業者から当該役務の提供を受けた日。次項において同じ。)から起算して60日の期間内において、かつ、できる限り短い期間内において、定められなければならない。
2 前項の場合において、報酬の支払期日が定められなかったときは特定業務委託事業者が特定受託事業者の給付を受領した日が、同項の規定に違反して報酬の支払期日が定められたときは特定業務委託事業者が特定受託事業者の給付を受領した日から起算して60日を経過する日が、それぞれ報酬の支払期日と定められ たものとみなす。(以下略)

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 期日における報酬支払義務とは、フリーランスが発注事業者から報酬の支払いを受けるべき日を明確にすることにより、確実な期日に報酬が支払われるようにするために発注事業者に課せられた義務です。従来は取引上の力関係から、報酬の支払いのタイミングが明確に示されなかったり、フリーランスから発注事業者に対して確認することが困難なことも多かったため、新法によってこのようなルールが明確にされました。

 発注事業者は、「給付を受領した日から60日以内のできる限り短い期間内」で支払期日を定めて、その日までに報酬を支払わなければなりません。もし発注事業者が支払期日を定めなかった場合は、物品などを実際に受領した日から起算して60日を経過する日が支払期日とみなされ、支払い義務を負うことになります。支払期日は、「8月31日支払い」のように、具体的な日を特定できるよう定める必要があります。「8月31日まで」のような表記は、8月31日当日が支払い日なのか、その前日である30日が支払い日なのかといった点が不明確となるため、認められません。

 なお、「毎月〇日締切、翌月〇日支払い」のように、月単位の締切と支払期日を設定することは認められますが、この場合であっても、給付を受領した日から60日以内に支払いを行なわなければならない原則に変わりはありません。月単位で支払期日を定める場合は、「受領した後60日以内」を「受領した後2か月以内」として運用するため、実務的には、31日の月も、30日の月も、同じく「1か月」としてカウントします。

 フリーランスが、元委託者から発注事業者を経て再委託を受けたときは、取引条件を明示する際に、①再委託である旨、②元委託者の名称(識別できるもの)、③元委託業務の対価の支払期日の3点が明示された場合には、「元委託の支払期日から起算して30日以内のできる限り短い期間内」で支払期日を定めることができます。再委託の発注事業者には小規模事業者や個人事業者も少なくなく、元委託者から支払いを受けていないにもかかわらず、再委託先のフリーランスへの報酬支払いが義務づけられると経営上の大きな負担が生じかねないことから、例外が認められることになりました。

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 報酬支払義務については、特に再委託の場合の例外などが分かりにくいルールとなっていますが、実際には元委託者→発注事業者→フリーランスという重層構造を持つ取引も少なくないと思われるため、契約の実態や取引条件などの応じた現実的な対応の中で、新法が求めるルールを確実に遵守していくことが大切だといえるでしょう。


(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)

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