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2024年8月 8日

小岩広宣社労士の「人材サービスと労務の視点」239・フリーランス・事業者間取引適正化等法①

Q フリーランスの働き方や取引をめぐる新法が秋から施行されると聞きましたが、どのような法律なのですか。

koiwa24.png フリーランス・事業者間取引適正化等法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)が、令和6年11月1日から施行されます。この法律は、フリーランス新法とも呼ばれ、フリーランスをめぐる業務委託取引についてのルールや、フリーランスが安心して働ける環境の整備について規定されています。働き方の多様化が進む中で、会社や組織に所属しないフリーランスの働き方が広まりつつありますが、一般的に、個人事業主であるフリーランスと、会社組織である発注事業者とでは、交渉力や取引上の力関係などに圧倒的な格差があるため、フリーランスが取引上の弱い立場となりがちであり、報酬の不払いやハラスメントなどのさまざまな問題やトラブルが顕在化していました。これらの課題に向き合う上で、フリーランスと取引するすべての事業者が守らなければいけない基本的なルールとして施行されたのが、今回の新法です。

 この法律は、「フリーランス」と「発注事業者」の取引関係について対象としており、「フリーランス」と「発注事業者」をそれぞれ以下のように定義しています。

「フリーランス」 「発注事業者」
【特定受託事業者】
業務委託の相手方である事業者であって、①②のいずれかに該当するもの
①個人であって、従業員を使用しないもの
②いわゆる「一人法人」
*ただし、14条(業務委託に関して行われる言動に起因する問題に関して講ずべき措置等)においては、「特定受託業務従事者」(①の個人、②の法人の代表)と定義
【特定業務委託事業者】
フリーランスに業務委託をする事業者であって、①②のいずれかに該当するもの
①個人であって、従業員を使用するもの
②法人であって、役員がいる、または従業員を使用するもの
【業務委託事業者】
フリーランスに業務委託をする事業者全般(フリーランスも含まれる)

 対象となる取引については、事業者からフリーランスへの委託(いわゆる「B to
B」)であり、フリーランスからフリーランスへの業務委託も対象となりますが、一般消
費者との取引(いわゆる「B to C」)は対象外です。また、不特定多数の消費者・事
業者との取引は、業務委託ではなく、単なる商品の販売行為にあたるため、取引の
相手方に事業者が含まれたとしても、対象外となります。つまりは、実質的な個人事
業主と会社組織である事業者との取引のうち、「B to B」の関係にあるものについ
て、一定の規制の対象とするのが、この法律の趣旨となります(形式的には業務委
託契約であっても、実質的に労基法上の労働者と判断される場合は、労働関係法
令が適用されるため、適用外となります)。

 この法律の規制は、「取引の適正化」と「就業環境の整備」の2つの分野について、それぞれ義務と禁止行為が定められるという建てつけになっています。

「取引の適正化」 「就業環境の整備」
・取引条件の明示義務(第3条)
・期日における報酬支払義務(第4条)
・発注事業者の禁止行為(第5条)
・募集情報の的確表示義務(第12条)
・育児介護等と業務の両立に対する配慮義務(第13条)
・ハラスメント対策に係る体制整備義務 (第14条)
・中途解除等の事前予告・理由開示義務(第16条)

 上記のそれぞれの違反への対応として、報告徴収・立入検査、指導・助言、中小企業庁の措置請求勧告、命令・公表、罰金・過料、義務、報復措置の禁止などが定められています。

 行政への相談や申し出についても、「取引の適正化」と「就業環境の整備」とで分類されており、内容が取引の適正化に関する事項の場合は、公正取引委員会と中小企業庁、就業環境の整備に関する事項の場合は、厚生労働省の労働局などが相談窓口となっています。「取引の適正化」(公正な取引や適正な報酬支払など)と「就業環境の整備」(適正な募集、中途解約、ハラスメント対策など)という、本来趣旨が異なり、行政の所轄も異なるテーマについて、フリーランスの保護という共通の目的から包括的な対応を行うことを狙いとしている点に、この法律の特徴があります。

 フリーランスはもとより、発注事業者(特定業務委託事業者)にとっても、どの課題についてどの行政機関が窓口となるかという切り分けも大切になってきますので、具体的な事案が発生した際に混乱しないよう、基本的な事項を押さえておきたいものです。


(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)

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