Q 10月からの社会保険の適用拡大について、所定内賃金が月額8.8万円以上の判断の実務的なポイントについてお教えください。
A 前回に引き続き、社会保険の適用拡大について、厚生労働省の「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用拡大Q&A集」の内容をみていきます。今回は、「7.給付・その他」について触れます。
今まで、被保険者資格の取得要件から適用事業所、所定労働時間、所定内賃金などの要件についてみてきましたが、ここでは、老齢厚生年金の受給者や2ヶ所以上の事業所で勤務の場合の取り扱いなどについてまとめられています。
所定労働時間が週20時間、所定内賃金が月8.8万円の老齢厚生年金の受給者が、今回の改正による適用拡大によって短時間労働者として厚生年金の被保険者となった場合には、在職老齢年金や高年齢雇用継続給付金などとの支給調整の対象になり、被保険者として保険料を支払いつつ、支給調整された在職老齢年金を受け取る立場となります。事業所の規模によって、同じ年齢、労働時間、賃金、年金受給であっても、従来とは立場が異なることになりますので、企業としてはその以降に向けた従業員へのアナウンスやアドバイスを行なっていくことが適当だといえるでしょう。
なお、障害者や長期加入特例の特別支給の老齢厚生年金を受けている人が、適用拡大によって被保険者となった場合には、従来からの受給権を保護する経過措置が講じられ、令和6年10月1日に被保険者資格を取得した場合に所定の届出をすることで特別支給の老齢厚生年金の定額部分は支給停止とされない取り扱いとなります。昭和36年4月1日以前の生まれで、厚生年金被保険者期間が「44年以上」といった要件に該当しており、特別支給の老齢厚生年金に定額部分と加給年金が加算された年金額を受け取っている場合には、忘れないようにしたいものです。
最近は兼業や副業などによって2ヶ所以上の事業所に勤務する人が増えていますが、この場合はそれぞれの事業所ごとに社会保険の加入要件を満たしているかを判断し、「健康保険・厚生年金保険 被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」を事務センターなどに提出して、両方の事業所で社会保険に加入することになります。なお、それぞれの事業所で受ける報酬月額を合算して標準報酬月額を決定し、保険料額はそれぞれの事業所で受ける報酬月額に基づいて按分して決定しますが、被保険者資格の要件を満たすかどうかについては、それぞれの事業所単位で判断を行うため、2ヶ所以上の事業所の所定内賃金や労働時間を合算するという取り扱いをするわけではありませんので、注意したいものです。
特定適用事業所該当届については、ほかの同種の届出と同様に電子申請や電子媒体には対応していませんので、紙の届書を事務センターに届け出なければなりません。被保険者区分変更届については、電子申請に対応していますので、e-Govの「電子申請トップページ」にログインして「区分変更届」を検索することで、申請者情報などを入力して、電子証明書を付与して、電子申請(提出)することができます。なお、電子媒体申請には対応していませんので、資格取得届、資格喪失届、算定基礎届、月額変更届、賞与支払届、被扶養者(異動)届、国民年金第3号被保険者関係届などのように、人事・給与データと連動して大量・定期的な届出を行うことはできません。
(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)