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2024年6月20日

小岩広宣社労士の「人材サービスと労務の視点」232・社会保険の適用拡大Q&A集③

Q 10月からの社会保険の適用拡大について、任意特定適用事業所の実務的なポイントについてお教えください。

koiwa24.png 10月1日から施行される常時50人超の企業の社会保険の適用拡大について、厚生労働省の「短時間労働者に対する健康保険 ・厚生年金保険の適用拡大 Q&A集」の内容をみていきます。今回は、「2.任意特定適用事業所」について触れることにします。

 「任意特定適用事業所」とは、厚生年金保険の被保険者が100人以下の事業所で短時間労働者が社会保険に加入することについての労使合意に基づいて申し出を行うことで、適用拡大の対象事業所となることをいいます。任意特定適用事業所に使用される「短時間労働者」は、健康保険・厚生年金保険の被保険者となります。今回の改正によって、この人数規模が「常時50人を超える」に変更されます。

問 21 被保険者の総数が常時 50人を超えない企業で、適用拡大をすることは可能か。

 10月1日以降は、50人以下の企業であっても、労使合意がなされた上で事務センター等に申出を行うことで、「任意特定適用事業所」となり、以下の短時間労働者は厚生年金保険・健康保険の被保険者となります。

①1週間の所定労働時間が20時間以上
②所定内賃金が月額8.8万円以上
③学生でないこと

 労使合意の対象となる労働者には、厚生年金保険の被保険者のほか、70歳以上の被用者、上記①~③の3要件を満たす短時間労働者が含まれます。労働者の過半数で組織する労働組合がない場合は、この対象者の2分の1以上の同意が必要となります。36協定や派遣法の労使協定などとは異なり、週の所定労働時間が20時間未満で厚生年金保険の被保険者とならない労働者は対象外となりますので、取り扱いを混同しないように注意しなければなりません。

問24 短時間労働者が1名でも社会保険の加入を希望した場合、合意に向けての労使の協議は必ず行う必要があるのか。

 短時間労働者が1名でも社会保険への加入を希望したからといって、ただちに任意特定適用事業所に向けての手続きをとらなければならない義務が生じるわけではありませんが、すみやかに必要な情報提供を行うなどして、社会保険の適用に向けて労使協議が適切に行われる環境整備に努めることが大切です。社会保険への加入は、労働者の年金や医療の給付が充実されることで、健康の保持や労働生産性の増進につながり、安心して就労できる基盤の整備にも資することになります。

 一方で、社会保険への加入は被保険者に対する保険料負担を発生させるものでもあることから、事業所においても加入にともなって賃上げや待遇の改善なども検討・実施すべきではありますが、基本的には労働者の個別の生活設計や経済状況、家庭の事情などによっても希望や意見が分かれることになりがちです。これらのことも十分に考慮した上で、まずは静かな環境で労使合意に向けた協議の場を整えたいものです。

 なお、同意の過半数代表者になるためには、①労基法41条2号の管理監督者でないこと、②代表者選出を明らかにして実施される投票、挙手、持ち回り決議などの方法で選出された者の2つの要件を満たすことが必要です。この要件は、36協定などの労使協定の過半数代表者の場合と同じです。

 労使合意を経て事務センターなどに申出を行うと、その申出が受理された日から任意特定適用事業所となり、新たに対象となる短時間労働者の資格取得日となります。短時間労働者が社会保険の適用となる時期なども十分に考慮した上で、労使合意や申し出の手続きを行うことが大切でしょう。

問29 一度申出が受理されれば、社会保険に加入し続けることができるのか。

 任意特定適用事業所となった場合は、その後も継続して社会保険に加入することとなり、同意書に有効期限などはないため、あらためて労使合意の手続きを求められることはありません。

 ただし、厚生年金保険の被保険者と70歳以上被用者の4分の3以上の同意を得て、事業主が事務センターなどに社会保険の脱退の申出を行い、受理された場合には、受理された日の翌日に、短時間労働者の社会保険の資格が喪失されることになります。しかし、特定適用事業所(厚生年金保険の被保険者数が常時51人以上であること)に該当している場合は、その間は労使合意によって社会保険から脱退することはできません。

 社会保険の適用拡大の要件が常時50人超の企業となることにより、社会的にも任意特定適用事業所の申し出の検討に向けた機運が高まる可能性がありますので、ぜひこの機会に基本的な実務の流れを押さえておきたいところです。

(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)

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