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2024年6月 6日

小岩広宣社労士の「人材サービスと労務の視点」230・社会保険の適用拡大Q&A集①

Q 10月からの社会保険の適用拡大について行政からQ&Aが出されていますが、実務的なポイントについてお教えください。

koiwa24.png 令和6年10月1日から、常時50人を超える企業について社会保険の適用拡大が実施されます。1月17日に厚生労働省から「短時間労働者に対する健康保険 ・厚生年金保険の適用拡大 Q&A集 (令和6年 10 月施行分)」が公開され、適用拡大をめぐる事務の取り扱いについて記載されています。50項目以上の内容について30頁近くのボリュームで記載されていますので、秋以降の具体的な実務対応にあたってのポイントを中心にまとめます。今回は、「1.被保険者資格の取得要件(総論)」について触れることにします。

問1 なぜ被用者保険の適用拡大を進める必要があるのか。


 そもそもの適用拡大の必要性については、さまざまな場面で意見が飛び交い、質問される機会も多いと思います。適用拡大の意義について、国は以下の3点を指摘しています。

①国民年金・国民健康保険加入となっている被用者について、厚生年金や健康保険による保障を確保する
②労働者の働き方や企業の雇い方の選択において、社会保険制度の選択が歪められたり、不公平が生じない制度を構築する
③適用拡大によって適用対象となった者が、基礎年金に加えて報酬比例給付を受けられるようになることなどを通じて、社会保障の機能を強化する


 ごく簡単にまとめると、①被用者でありながら国民年金や国保の加入となっている人を適用対象とする、②短時間労働者などで社会保険の対象外となっている人を新たに適用対象とする、③これらを通じて、厚生年金(報酬比例給付)などの社会保障を強化する、という流れになります。

 従来は元来別々の経緯をたどっていた被用者年金や健康保険の制度は、次第に職域ごとの制度が廃止統合されたり、公務員の共済制度が民間と一体化される流れを汲みましたが、広く被用者全般について共通の制度運用を目指すとともに、社会的な性別役割分業の変化にともなって、短時間労働者や被扶養者のあり方も見直しが必要との時代の要請によるものと考えることができるでしょう。

問2 適用拡大の実施により、短時間労働者に対する厚生年金保険・健康保険の 被保険者資格の取得要件はどのようになるのか。令和6年10月1日からは何が変わるのか。


 適用拡大の実施により、厚生年金の被保険者の総数が常時50 人を超える企業では、以下の要件をすべて満たす労働者は被保険者となります。

①1週の所定労働時間が20時間以上であること。
②所定内賃金が月額8.8万円以上であること。
③学生でないこと。
④適用事業所に使用されていること


 70歳以上の労働者で年金が在職支給停止となるケースについても同様であり、短時間労働者として被保険者資格を取得した人が、雇用契約の変更などで一般被保険者となった場合は、5日以内に、「健康保険・厚生年金保険被保険者区分変更届」を日本年金機構の事務センター(年金事務所)に届け出なければなりません。

 なお、最初の雇用契約期間が2月以内の場合は原則被保険者となりませんが、以下に該当する場合は、「2月以内の雇用契約が更新されることが見込まれる場合」として、最初の雇用契約期間から被保険者の資格を取得します。

・就業規則や雇用契約書その他の書面において、雇用契約が「更新される旨」「更新される場合がある旨」が明示されている
・同一の事業所において、同様の雇用契約に基づき雇用されている者が、契約更新等により最初の雇用契約の期間を超えて雇用された実績がある


 この場合であっても、2月以内で定められた最初の雇用契約の期間を超えて使用しないことについて労使の書面による合意(メールも含む)が成立しているときは、「2月以内の雇用契約が更新されることが見込まれる場合」には該当しません。

 今回の適用拡大の内容自体はほぼ2年前の100人超えの際の流れと同じですが、実務的には適用の要件や期間雇用の場合の取り扱いといった基本事項の確実な把握が重要となりますので、改正内容のみにとらわれずにあらためて社会保険の適用の仕組みの全体像の理解および周知の機会ともしていきたいものです。

(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)

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