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2024年5月30日

小岩広宣社労士の「人材サービスと労務の視点」229・令和6年雇用保険法改正について

Q 今年の国会で雇用保険法の改正が行われたと聞きました。具体的な内容や実務への影響についてお教えください。

koiwa24.png 5月10日、通常国会で雇用保険法等の一部を改正する法律(令和6年法律第26号)が可決成立しました。主な改正内容は、
1.雇用保険の適用拡大(雇用保険法、職業訓練の実施等による特定求職者の就職の支援に関する法律)
2.教育訓練やリ・スキリング支援の充実(雇用保険法、特別会計に関する法律)
3.育児休業給付に係る安定的な財政運営の確保(雇用保険法、労働保険の保険料の徴収等に関する法律)
4.その他雇用保険制度の見直し(雇用保険法)
――の4本柱となっています。原則的な施行期日は令和7年4月1日とされつつ、改正内容によって令和6年から令和10年にまたがっており、やや分かりづらいため、以下に施行期日ごとに時系列に整理します。

公布日(令和6年5月17日)~
・育児休業給付の国庫負担の引下げの暫定措置の廃止(3.育児休業給付に係る安定的な財政運営の確保)
・介護休業給付の国庫負担の引下げの暫定措置の令和8年度末までの継続(4.その他雇用保険制度の見直し)
令和6年10月1日~
・教育訓練給付金について、訓練効果を高めるためのインセンティブ強化のため、雇用保険から支給される給付率を受講費用の最大70%から80%に引き上げ(2.教育訓練やリ・スキリング支援の充実)
令和7年4月1日~
・自己都合で退職した者が、雇用の安定・就職の促進に必要な職業に関する教育訓練等を自ら受けた場合には給付制限をせず、雇用保険の基本手当を受給できるようにする(2.教育訓練やリ・スキリング支援の充実)
・育児休業給付の保険料率を引き上げつつ(0.4%→0.5%) 、保険財政の状況に応じて引き下げ(0.5%→0.4%)られるようにする(3.育児休業給付に係る安定的な財政運営の確保)
・教育訓練支援給付金の給付率引下げ(基本手当の80%→60%)及び当該暫定措置の令和8年度末までの継続(4.その他雇用保険制度の見直し)
・就業促進手当の見直し(就業手当の廃止及び就業促進定着手当の給付上限引下げ)(同上)
・雇止めによる離職者の基本手当の給付日数に係る特例、地域延長給付の暫定措置の令和8年度末までの継続(同上)
令和7年10月1日~
・自発的な能力開発のため、被保険者が在職中に教育訓練のための休暇を取得した場合に、その期間中の生活を支えるため、基本手当に相当する新たな給付金を創設(2.教育訓練やリ・スキリング支援の充実)
令和10年10月1日~
・雇用保険の被保険者の要件のうち、週所定労働時間を「20時間以上」から「10時間以上」に変更し、適用対象を拡大(1.雇用保険の適用拡大)


 公布日から施行された育児休業給付や介護休業給付の国庫負担の改正などは直接事業所における実務には関係しないため、実務的には、教育訓練給付金の拡充、自己都合離職者の給付制限の見直し、雇用保険の適用拡大が中心テーマとなります。令和10年10月からの適用拡大がもっともインパクトの大きな改正であり、パートタイマーやアルバイトなどの労務環境にも変化が訪れ、被保険者期間の算定基準の改正による離職票の作成業務などへの影響も小さくないと考えられます。

 また、自己都合離職者の給付制限の見直しは、労働者の再就職活動の促進に資する一方、雇用の流動化による離職者増加につながる可能性もあり、パート・アルバイトや派遣労働者の労務管理のあり方にも影響を与えることが想定されます。

 今後具体化していく育児休業給付制度の支給率引き上げの動向も含めて、相次ぐ雇用保険法関係の改正は企業の人事労務施策の実務に直結するものが多いため、最新情報に留意しつつ適宜必要な対応に取り組んでいきたいものです。


(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)

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