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2024年3月14日

小岩広宣社労士の「人材サービスと労務の視点」218・労使協定イメージ最新版について

Q 令和6年2月に労使協定イメージの最新版が公開されましたが、どのような点が変わっていますか。

koiwa24.png 令和6年4月1日以降に適用される「同種の業務に従事する一般労働者の賃金水準」が公表されたのを受けて、令和6年2月7日、厚生労働省のホームページで労使協定のイメージ最新版が公表されました。今回公開されたイメージでは、大きな変更点や追加された条文はありませんが、注釈において追加された文言などがあるため、その点を中心に触れたいと思います。

①労使協定前文

〈前回版〉
「○○人材サービス株式会社(以下「甲」という。)と○○人材サービス労働組合(以下「乙」という。)は、労働者派遣法第30条の4第1項の規定に関し、次のとおり協定する。」

〈最新版〉
「○○人材サービス株式会社(以下「甲」という。)と労働者の過半数で組織する労働組合○○人材サービス労働組合(以下「乙」という。)は、労働者派遣法第30条の4第1項の規定に関し、次のとおり協定する。」


 最新版では、下線部分の「労働者の過半数で組織する労働組合」という文言が追加され、過半数組合の要件を次のように記載しています。

 「各事業所に使用されるすべての労働者の過半数で組織する組合であり、雇用形態にかかわらず事業所で雇用するすべての労働者(直接雇用の派遣労働者も含む)の過半数で組織する労働組合でなければならない。」

 過半数代表者の選任の過程における注意点として、次の文章で締めくくられています。

 「労働者に対してメールで通知を行い、そのメールに対する返信のない人を信任(賛成)したものとみなす方法は、一般的には、労働者の過半数が選任を支持していることが必ずしも明確にならないものと考えられる。」

 前回版まで前文は、2行でシンプルに記載されており、特段の注釈はありませんでしたが、最新版では記載例3パターンに加えて、少し長めの注釈がつきました。新たに労使協定を締結する際には、選任過程から十分注意して進めたいものです。

②第3条(賃金の決定方法)
 労使協定のイメージの第3条本文に変更はありませんが、次の注釈が設けられました。

 「※一般賃金の額が下がったことに伴い待遇を引き下げる場合は、労働条件の不利益変更となり得るものであり、労働条件の不利益変更には、労働契約法上、原則として労使双方の合意が必要であることに留意が必要。」

 通達では、一般賃金の額が下がった場合でも、見直し前の労使協定に定める額を基礎として、公正な待遇の確保について労使で十分に協議することが望ましいとしています。

 「実際にこれにより待遇を引き下げる場合は、労働条件の不利益変更となり得るものであり、労働条件の不利益変更には、労働契約法(平成19年法律第128号)上、原則として労使双方の合意が必要であることに留意が必要である。」

 このような記載は前回までの通達にも記載されていましたが、行政調査の中で実際に待遇が引き下げられているような事例が散見されたことにより、今回注釈が追記されたのではないかと考えられます。

③第9条(有効期間)
 こちらも本文に変更はありませんが、次の注釈が追加されました。

 「※有効期間の長さについては、その対象となる派遣労働者の待遇の安定性や予見可能性、実務上の対応を考慮すれば長くすることが考えられる一方で、労働者の意思を適正に反映することを考慮すれば短くすることが考えられるため、画一的な基準を設けることとはしていないが、目安として2年以内とすることが望ましい。」

 労使協定の有効期間について派遣法では明確な規定は設けられていませんが、実務的には1年間としているケースが多いです。「労働者派遣事業関係業務取扱要領」には、以前から注釈とまったく同じ目安が示されていましたので、その内容が改めて注釈に示された形になります。

④署名または記名・押印欄
 前回までも記載されていた労働組合があることを前提とした記載に加えて、「労働者過半数代表者と締結する場合の記載例」が追加され、押印に関する次の注釈が設けられました。

 「※令和3年4月以降、行政への届出文書は押印不要であるが、協定書については労使双方で合意・締結されたことを明らかにするため、労働者代表および使用者の署名または記名押印することが望ましい。なお、労使双方において記名または押印不要と規定した場合にはこの限りではない。」

 実務上は、押印されているケースがほとんどですが、改めて見解が示されたことを受けて具体的に判断していきたいものです。

 今回の労使協定のイメージ最新版については前回版から大きな変更事項はありませんが、もともと複雑な内容であることに加えて上記のような注釈が加えられていますので、十分に理解した上で円滑に今後の労使協定の実務を進めていただきたいと思います。


労働者派遣法第30条の4第1項の規定に基づく労使協定(令和6年2月公表版)


(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)

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