Q 新たな年を迎えましたが、2024年も企業経営に影響の大きい労働法をめぐる改正が続くといわれています。今年の労働法や社会保険の関係の改正の大まかな流れについてお教えください。
A 新年明けましておめでとうございます。昨年に引き続き今年もこのコラムを担当させていただく、社労士の小岩です。早いもので5年目の執筆となりますが、最近は「読んでますよ」とお声がけくださる方も増えてきており、あらためて読者のみなさまに感謝いたします。今年もさらに労働法改正がめじろ押しで社会保障制度に関する議論が加速する一年になりますが、多様な働き方や多様性の時代の労務管理と向き合う現場感を大切に、フレッシュな話題を分かりやすくお伝えしていきますので、引き続きよろしくお願いいたします。
2024年も引き続きさまざまな改正が予定されていますが、とりわけ企業実務への影響が大きいのは、4月からの労働者を雇用するあらゆる事業所に関わる労働条件明示のルール改正、いよいよ特例がなくなり全業種に改正労基法の原則が適用される時間外労働の上限適用(建設事業、自動車運転の業務、医師)、そして、さらに適用範囲が拡がり労務管理や経営全般への影響がきわめて大きい10月からの社会保険加入対象企業の拡大です。以下に、現段階で確定している2024年の主な改正点を整理します。
2024年1月~ | 電子帳簿保存法が本格スタート |
4月~ | 労働条件明示のルール改正 すべての業種で時間外労働の上限適用(建設事業、自動車運転の業務、医師) 裁量労働制(みなし労働時間)制度の見直し(以上、労基法関係) 障害者雇用率の変更(障害者雇用促進法) |
10月~ | 社会保険加入対象企業の拡大(健康保険法・厚生年金保険法) |
秋~ | フリーランス保護法の施行 |
12月~ | マイナンバーカードと保険証が一体化 |
労働条件通知書をめぐるルール変更は、新たに採用する労働者に対して新様式の労働条件明示書を交付する必要があるほか、契約社員などの有期雇用労働者に対して、更新上限や無期転換の条件について所定の情報を明示することが義務づけられます。改正によって、就業場所や業務内容を限定する「限定正社員」的な働き方をしたいと考える人が増える可能性もあり、事業所としては必要に応じてそうした制度の運用や創設を検討したり、就業場所や業務内容の変更範囲などについて従来以上にきめ細かく説明・共有をしていくことが肝要となるでしょう。
「働き方改革」による労基法改正で36協定による上限規制が月45時間、年間360時間となり、大企業では2019年4月から、中小企業では2022年4月から施行されていますが、建設事業、自動車運転の業務、医師については5年間の猶予期間が設けられていたところ、2023年4月からは原則の上限規制(それぞれ上限時間の詳細ルールは異なる)が適用されることになります。俗に「2024年問題」と称されるように、人手不足、物価高騰などが企業経営を直撃する中で、上限規制の適用がさらなる人手不足や人件費上昇などにつながることで、これらの業種で働く人だけでなく広く経済社会全体にも大きな影響が出ることが懸念されています。
パート・アルバイトの社会保険の加入適用については、2022年10月から被保険者数101~500人規模に引き下げられていますが、2024年10月からはさらに51~100人の中小企業にも適用されることになります。現在は月額収入約10万8千円まで扶養の範囲内で勤務できますが、2024年10月からは8万8千円以上の場合は社会保険の対象となるため、パート・アルバイトの働き方や企業の法定福利費などにも大きな影響があります。社会保険への加入を望まない人も存在することが考えられるため、早期に個別面談や説明会などを実施したり、必要に応じて雇用契約や勤務条件の見直しなどを相談していくなどの対応を心掛けたいものです。
2024年は、加速する少子高齢化にともなう社会保障制度の見直しの議論や、健康保険証のマイナンバー統合、賃金のデジタル払い、生成AIのさらなる進化などの潮流、いわゆるZ世代のカルチャーやハラスメントをめぐる社会的な価値観の多元化、ジェンダーや国籍やキャリアなどを超えて多様な働き方を志向するダイバシティ経営への動きが加速しつつ、混迷する政治や物価高騰、人手不足が直撃する経済の動向もあいまって、これからの日本の帰路に立つ一年になるかもしれません。まずは着実に目の前の課題に向き合いながら、明るい未来への展望を胸に邁進する年にしていきたいものです。
(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)