Q 令和6年4月から施行の労働条件通知書の明示項目の追加のうち、無期転換に関する事項にはどのように対応すべきでしょうか。
A 令和6年4月からの労働条件明示のルール変更のうち、無期転換に関する事項については、①無期転換申し込み機会の書面明示、②無期転換後の労働条件の書面明示、③均衡を考慮した事項の説明の3点があります。契約社員やパートタイマーをはじめとする有期契約労働者の契約更新にあたっての労使間のすれ違いやトラブルが多いことから、紛争などを予防する事前対応として今回の改正が図られました。
①無期転換申し込み機会の書面明示について
「無期転換申し込み権」が発生する契約更新ごとに、無期転換の申し込みができる旨を労働者に書面で明示することが義務となります。有期労働契約が5年を超えて更新されると、労働者からの申し込みによって、労働契約が有期から無期に転換される無期転換申し込み権が発生しますが、このような法律上の制度を知らなかったり、知っていても正確に対応することが困難な労働者も少なくないことから、労働条件明示書で明示することが課されることになりました。
この明示は初めて無期転換申し込み権が発生したときだけではなく、その後に契約更新が行われる場合には同様に行う必要があります。すでに通算契約期間が5年を超えて無期転換申し込み権が発生している労働者に対しても当然に明示義務がありますので、改正前は事業主に制度の周知義務はないとはいえ、施行後の混乱やトラブルを避ける意味でも、必要に応じて事前の機会に社内で周知や啓蒙を行うことも検討したいものです。
②無期転換後の労働条件の書面明示について
労働契約法18条(有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換)では、通算契約期間が5年を超えた場合に無期転換申し込み権が発生する旨の規定が置かれていますが、無期転換後の労働条件については、「この場合において、当該申込みに係る期間の定めのない労働契約の内容である労働条件は、現に締結している有期労働契約の内容である労働条件(契約期間を除く。)と同一の労働条件(当該労働条件(契約期間を除く。)について別段の定めがある部分を除く。)とする」とされています。実際には就業規則や労働条件で「別段の定め」をするケースも少なくなく、無期転換後の労働条件がややもすると不明確であったり、労働条件が低下するケースも少なくなく、労使間の摩擦やトラブルにつながる例も見受けられました。
改正後は、無期転換申し込み権が生じる契約更新時と無期転換申し込み権の行使による無期労働契約の成立時に、それぞれ無期転換後の労働条件を明示しなければなりません。具体的には、厚労省のモデル労働条件通知書のように「本契約からの労働条件の変更の有無」について記載し、変更ありの場合には変更後の労働条件の内容や就業規則の該当条文などを具体的に示すことが必要となります。なお、「別段の定め」によって労働条件が低下することは法律の趣旨に照らしても望ましくないため、定年後の嘱託契約への切り替えや、業務内容や責任の範囲などの変更によるなどの事情をあらかじめ盛り込んだ制度構築や周知に心掛けるべきだといえます。
③均衡を考慮した事項の説明について
無期転換申し込み権が発生するごとに、対象となる労働者に対して無期転換後の労働条件について、他の通常の労働者(いわゆる正社員など)との均衡を考慮した事項の説明をするように努めることが求められます。無期転換する労働者は少なくとも5年を超えるキャリアを持つにもかかわらず、非正規雇用という枠組みで採用・管理されてきたことから、無期雇用となった後も相対的に労働条件が向上しないケースが多いことから、今回の改正でこのような努力義務が課されました。説明は文書を示して面談等を行うことが理想ですが、説明事項をすべて網羅した資料の交付や説明会などの形式で行っても差し支えありません。
具体的には、他の通常の労働者との間の業務内容、責任の程度、転勤の有無・範囲などを考慮した賃金テーブルを示すことが考えられますが、平易な言葉で分かりやすく説明を行うのにあたって、正社員が従事する業務と責任範囲、無期転換社員が従事する業務と責任範囲との違いを端的に表にして示すと伝わりやすいと思います。特に「責任の程度」については普段は目に見えない部分も大きいため、クレーム対応や本社・本部などとの間の連携、事業場施設の管理など、できる限り具体的に言葉化して共有をはかることが大切でしょう。
(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)