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2023年12月 7日

小岩広宣社労士の「人材サービスと労務の視点」204・労働条件明示のルール変更について②

Q 令和6年4月からの労働条件通知書の明示項目の追加のうち、就業場所・業務の変更範囲の明示にはどのように対応すべきですか。

koiwa1.png 令和6年4月1日からの労働条件の明示事項などのルール変更により、就業場所・業務の変更の範囲の明示が義務づけられます。同時に追加される有期労働契約の更新の有無や内容の明示などとは異なり、正社員などの無期契約労働者はもちろん、パート・アルバイトや契約社員、派遣社員、定年後に再雇用された嘱託社員なども含むすべての労働者が対象となります。

 「就業場所」は労働者が通常就業することが想定されている場所、「業務」は労働者が通常従事することが想定されている業務を指すため、出張や応援、研修などによって就業場所や業務が一時的に変更されるようなケースは該当しません。テレワークについては、採用当初から予定されている場合はそのように記載し、状況の変化などに応じて実施する可能性がある場合は、「変更の範囲」として記載することが求められます。

 労働条件通知書への記載については、厚生労働省のリーフレット「2024年4月からの労働条件明示のルール変更 備えは大丈夫ですか?」で記載例が示されていますが、類型としては、①就業場所・業務に限定がない場合、②就業場所・業務の一部に限定がある場合、③完全に限定(就業場所や業務の変更が想定されない場合)、④一時的に限定がある場合(一時的に異動や業務が限定される場合)の4つがあります。

①就業場所・業務に限定がない場合
 いわゆる新卒一括採用に代表されるような総合職・メンバーシップ型の雇用を行う場合は、ジョブローテーションによる配置転換や長期的なキャリア形成を目的とした業務内容・社内ポジションの変更、関連会社への出向などを含めた幅広い人事交流などが図られることになるため、就業場所や従事すべき業務の変更の範囲はその会社で想定しうる最大限の幅に設定されるケースが多いといえます。

 就業場所については、「会社が定めるすべての事業所」としたり、別途一覧表などを掲示することも可能ですが、テレワークや海外勤務などの可能性もある場合は、あらかじめ労使間の共通認識を持つためにも、できるかぎり具体的に事業所の範囲を記載しておくことが親切だといえるでしょう。従事すべき業務については、「会社が定めるすべての業務」としても問題はないと考えられますが、多角化経営などの事情によって、募集要項やコーポレートサイトではうたっていない業務が存在する場合などは、のちのちのトラブルを予防するためにも補足的な記載をすることが適当でしょう。

②就業場所・業務の一部に限定がある場合
 就業場所や業務の変更範囲が一定の範囲に限定されている場合は、変更される可能性のある範囲を明確に記載します。就業場所については、「本社および名古屋支社」、「大阪府内」、「関東エリア内(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)」などと記載するのが一般的ですが、新たに事業所が新設される可能性がある場合はあらかじめ想定しうる内容を記載しておくことが大切です。

 従事すべき業務については、今後携わる可能性のある業務内容をすべて記載します。ポジティブリスト(変更の範囲に含まれる業務をすべて挙げる)が原則となりますが、変更の範囲が圧倒的に広い場合などはネガティブリスト的な記載を併用することも考えられるでしょう。なお、在籍出向において出向先での就業場所や業務内容が当初の範囲を超える可能性がある場合には、あらかじめ具体的な変更の範囲を記載しておくことが必要となります。

③完全に限定(就業場所や業務の変更が想定されない場合)
 いわゆる勤務地限定契約や職種限定契約がこれに該当します。契約社員やパートタイマー、嘱託社員などのほか、昨今ではキャリアの多様化の動向もあって、勤務地限定正社員、職種限定正社員も増えつつあります。基本的には雇い入れ直後と変更の範囲が同様となる旨の記載をすることになりますが、外部環境の変化や本人の希望などによってテレワークなどを行う可能性がある場合は、あらかじめその点も具体的に記載しておくことが求められます。事務系職種などでコロナ禍においてテレワークへの切り替えを行った実績がある場合などは、留意しておきたいところです。

④一時的に限定がある場合(一時的に異動や業務が限定される場合)
 一時的な移動や会社の指示などによって就業場所や業務内容の変更が限定される場合は、具体的な異動や業務変更の内容や手続きについて就業規則で細則を定め、それを根拠に労働者が申請して会社が承認を行うのが一般的です。就業規則にこのような規定がない場合は、労働条件通知書への記載とともに、根拠規定を策定することが望ましいでしょう。
 育児休業や介護休業による短時間勤務中に勤務地や業務の変更を限定する場合などは、従前の勤務地や業務にとどまることが原則となると考えられるため、労働条件通知書への記載のみで対応することが可能だと考えられます。

(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)

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