Q 国が打ち出している「配偶者手当の見直し」とは、具体的にどのようなものでしょうか。
A いわゆる「年収の壁」への対応策として「年収の壁・支援強化パッケージ」が提起されていますが、その中では、「106万円の壁」への対応、「130万円の壁」への対応とともに、「配偶者手当への対応」が打ち出されています。本来企業がどのような手当を設定していかなる条件で支給するかは労働契約や就業規則(賃金規程)に基づくかぎり経営の裁量に属することであり、不利益変更などが問題となるケースを除いては、原則として外部からの制約を受ける性格のものではないといえます。
ただし、実態として配偶者が会社の配偶者手当をもらうために、手当受取りの収入基準を超えないように働き控えをする例が少なくないことから、「配偶者手当の在り方の検討に関し考慮すべき事項」(基発0509第1号、平成28年5月9日)では、「パートタイム労働で働く配偶者の就業調整につながる配偶者手当(配偶者の収入要件がある配偶者手当)については、配偶者の働き方に中立的な制度となるよう見直しを進めることが望まれる」という認識が示され、「個々の企業の実情(共働き、単身者の増加や生涯未婚率の上昇等企業内の従業員構成の変化や企業を取り巻く環境の変化等)も踏まえて、真摯な話合いを進めることが期待される」とされています。
そこで「年収の壁・支援強化パッケージ」では、いわゆる「年収の壁」への対応の一環として、企業の「配偶者手当」の見直しが提起され、令和5年9月27日の「年収の壁・支援強化パッケージ」(厚労省)では、以下の3点が示されています。
②令和6年春の賃金見直しに向けて、中小企業において配偶者手当の見直しの手順をフローチャートで示す等わかりやすい資料を作成・公表する
③配偶者手当の見直しについて各地域でセミナーを開催し、中小企業団体等を通じて周知する
具体的な配偶者手当の見直しにあたっては、
「使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない」(労働契約法9条)
「使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする」(同10条)
――に留意する必要があることから、具体的な判例や企業事例などを踏まえた上で、以下の要素を十分に考慮した上で慎重に進める必要があります。
具体的には、人事・処遇制度全体の見直しの中で検討を行ったり、1~2年の期間をかけた丁寧な話し合いの上で労使合意を得たり、新しい制度への移行にあたって経過措置を設けたり、基本給への組み入れなどを通じて全体として賃金総額が維持されるように配慮するなどの対応が求められるといえます。団体交渉や協議の場で繰り返し会社の考えを説明し理解を求め、労働者代表者などから意見収集を行い、自由に意見を述べる機会を設けるなどのプロセスも大切だといえ、企業としてはある程度の移行期間や経過措置などを設けて慎重に改廃へのフローを実施していくことを心掛けるべきでしょう。
(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)