もう25年近い昔、私は東京から大阪へ2年間、単身赴任したことがあった。それまで関東圏しか知らなかった私にとって、家族と離れる寂しさはあったが、関西の生活はいろいろな意味で新鮮だった。
ある秋の夜。会社からねぐらに帰るバスに飛び込んだら、何組かの家族連れが乗っていた。みなさん、タテジマ帽にタテジマユニフォーム。虎のタオルを首に掛け、ぐったり寝ている子供たちを膝に抱えていた。ああ、甲子園帰りなんだ。
「なんで、勝てへんのやろ」「今年も最下位やなあ」「俺たちが生きているうちに、何とかなるんやろか」「さあ、どうだか」......。夫婦の小声の会話が耳に入ってくる。ははあ、阪神タイガースが負けた試合だったのか。特にひいきのチームもなかった私にとっては、どうでもいい会話だったが、妙に心に引っ掛かった。関西のタイガースファンは毎年、こんな気持ちでいるのだろうか。後で調べてみたら、当時はタイガースが最下位を重ねる絶不調時代だった。
それ以来、私もタイガースのファンになり、東京へ戻っても四半世紀にわたってファンを続けている。38年ぶりの日本一になった今回、道頓堀に飛び込む能天気もいたが、涙ぐむファンもかなりいたように思う。で、あの時の会話を思い出した。彼らは今年も観戦に行っただろうか、大人になった(はずの)子供たちは「六甲おろし」を歌ったのかな。関西人にとって、タイガースは人生の一部。新鮮な体験の一つだった。(俊)