Q 「社会保険の壁」の問題へのさまざまな対応を通じて、これから第三号被保険者制度はどのようになっていくと考えられるでしょうか。
A 今回の「年収の壁」支援強化パッケージを受けて、「第3号被保険者はなくなるのではないか?」という報道などもしばしば目にします。武見厚労相も10月3日の記者会見で、「将来の検討課題であり、選択肢の一つだ。これから議論がどう展開されるかよく見極めながら、最終的に判断していきたい」という考えを示しました。今回の政策の流れを受けて、第3号被保険者について従来以上に正面から議論の対象となり、方向性としては近い将来の改廃という流れに帰着するかもしれません。
社会保険促進手当が社会保険の算定基礎から除外されるのは最大2年であり、事業主証明による被扶養認定の円滑化の措置も2回までとされています。促進手当と事業主証明による扶養認定の共通点から推察して、先走った論調の中には実質2年間の経過措置の意味合いを含んでいるという見立てをするものもあります。2年後に予定されている年金制度改革と、さらなる適用拡大や最賃引き上げの効果も考えると、流れとしては第3号被保険者制度は根本的に問われる時期が近づいているといえるでしょう。
あまり報道されませんが、諸外国の年金制度をみても、被扶養配偶者に満額支給されるのは日本くらいで、米国や英国などは一定割合の部分年金が支給されています。現在の社会保障や税制が導入された昭和末期の時代とは家族のあり方や産業構造は一変し、政策的に夫婦のあり方を固定化しようとする制度には、すでにさまざまな矛盾や限界が出てきています。ダブルインカムが当たり前の若い世代のジェンダーロールへの負の影響も考慮すれば、すでに歴史的使命を終えているといえるのかもしれません。
今月から適用される最低賃金が全国過重平均で1000円超えが実現した時代、制度設計時から運用されてきた「壁」が同額のまま残されていることがむしろ現実離れしているともいえるでしょう。これから本格化する審議会での議論を注視する必要がありますが、最終的には男女共同参画白書にいう「令和モデル」に向かうのが全体最適だという考えに集約されるのではないかと思います。先のことは誰にも分かりませんが、事業所としてはこれからの新たな方向性に柔軟に対応していく心構えが必要な時期だといえます。
(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)