コラム記事一覧へ

2023年10月19日

小岩広宣社労士の「人材サービスと労務の視点」197・「年収の壁」への対応について②

Q 社会保険促進手当や事業主証明による被扶養認定の円滑化について、どのような点が変わるのでしょうか。

koiwa1.png 「106万円の壁」への対応について、キャリアアップ助成金と社会保険適用促進手当を新設することで、労働者の負担分を手当することが想定されていますが、省令の改正が必要なキャリアアップ助成金については現在のところその具体的な内容は明らかになっていないため、ここでは社会保険促進手当と事業主証明による被扶養認定の円滑化について、簡単に触れたいと思います。

 「社会保険適用促進手当」とは、今まで社会保険の適用外だった労働者が新たに適用となった場合に、労働者の保険料負担を軽減することを目的に、事業主が支給することができる手当のことをいいます。この手当は、給与や賞与とは別に支給するものとし、保険料算定の基礎となる標準報酬月額や標準賞与額の算定には参入しないこととされます。したがって、手当額該当分の社会保険料はかからず、その全額が引き上げられた保険料負担の軽減に充てられることになります。

 この手当を有効活用することで効果が期待できそうですが、運用の詳細については今後の情報を待つ必要があります。例えば、社会保険の算定からは除外されるとされているが、労働保険の取り扱いはどうなるか?最大2年とされているものの、3年目以降の運用はどうなるのか?手当として制度化したものを一方的に廃止すると不利益変更になるか?などといった点は、現段階では不明ですので、あくまで全体像が明らかになってから制度設計などの実務対応を進めるべきだと思います。

 被扶養者の認定は、過去の課税証明書、給与明細書、雇用契約書などによって確認されますが、短時間労働者である被扶養者が一時的に年収130万円以上となる場合については、人手不足による労働時間延長などに伴う一時的な収入変動である旨の事業主の証明を添付することで、引き続き被扶養者としての認定を可能とする措置が講じられることになります。

 この取り扱いはあくまでも「一時的な事情」に基づく例外的な認定であることから、同一の者について原則として連続2回までが上限となります。したがって、1年目150万円、2年目150万円で事業主証明によって被扶養者の認定を維持した場合でも、3年目は130万円を超えない働き方をしない限り、被扶養者にとどまることはできなくなります。この制度がいつまで続くのか、例えば3年目に130万円を超えなければ、4年目以降はまた事業主証明による取り扱いが認められるのかどうかは、現段階では不明です。また、事業主証明による場合も、収入額の上限が設けられる可能性もありますので、今後の情報に注視したいものです。

 いずれにしても、この認定についてはあくまで例外的な取り扱いであり、収入額や実際の運用については行政の裁量の余地があり、実施期間についてもひとまず2年間だと受け止めておいた方がリスク管理上は望ましいと思います。事業所としては、該当する労働者からの照会や要望がもっとも多いテーマであることが予測されるため、確実な説明と実務対応を図るための準備を整えておくことが大切でしょう。

(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)

PAGETOP