大手百貨店の「そごう・西武」の労働組合が8月31日、西武池袋本店でストライキを実施した。親会社が、赤字の止まらない百貨店事業を縮小し、米投資ファンドに売却を決めたことに抗議するストだった。大企業のスト自体が珍しかったこともあり、メディアもこぞって取り上げたが、一過性の報道に終わった。
西武百貨店は、他の百貨店とは毛色が違っていた。それは、百貨店を単なる物販機能でなく、さまざまな文化を創出、情報発信した拠点としても知られたからだ。それは中興の祖である堤清二さん(2013年死去)のキャラクターが大きかった。堤さんは経営者としてだけでなく、「辻井喬」のペンネームで小説や詩も書いた。百貨店を核に「セゾングループ」を作り上げ、芸術分野を含む一大情報発信基地に育て上げた。
バブル真っ盛りの1980年代後半、仕事で堤さんと何度か会ったことがある。コンビニのファミリーマートを立ち上げ、有楽町西武を出店するなど、経営の絶頂期にあった堤さんだったが、話が盛り上がるのはもっぱら文学、美術、演劇などの文化面だった。いま思えば、それもこれも本業の百貨店が順調だったからこそ可能だった。しかし、バブル崩壊で屋台骨が揺らぎ、セゾングループは事実上解体の道をたどる。
だが、池袋西武が情報文化の発信拠点だったことを、地元の人々は忘れていなかった。売却後は大手家電チェーンが入るそうだが、池袋はすでに家電の"激戦区"であり、「これ以上は要らない」と思う人も少なくない。それでも、「百貨店でやっていけない以上は仕方がない」という経営論理に呑み込まれてしまうのか。彼岸の堤さんはどう思っているだろうか。聞いてみたい気がする。(本)