Q いわゆるZ世代の従業員の考え方が分からず、行動が読めなくて困っています。何か参考にできるものはないでしょうか。
A Z世代(概ね90年代終わりから10年代序盤まで生まれ)を中心とする若者への労務管理で頭を抱える経営者や管理職が多いです。いつの時代にも「若者は分からない」といわれてきたとは思いますが、とはいえ最近のZ世代と昭和生まれとの間の感覚や発想をめぐるすれ違いは深く、筆者のような社労士の目線からみても、深刻な労使トラブルに発展する事例が増えていると感じます。
昨年出版された話題となった金間大介氏の『いい子症候群の若者たち―先生、どうか皆の前でほめないで下さい』(東洋経済新報社)は、主にいまどきの学生などの若者心理を深く読み解いたことでメディアなどでも取り上げられましたが、若者世代の部下とのコミュニケーションに悪戦苦闘している上司の目線からもとても参考になる一冊です。
・言われたことはやるけど、それ以上のことはやらない
・人の意見はよく聞くけど、自分の意見は言わない
・タテのつながりを怖がり、ヨコの空気を大事にする
・一番嫌いな役割はリーダー
・競争が嫌い
・特にやりたいことはない
これらが金間氏が指摘するZ世代の行動原理の一部です。たしかに最近の若者はそうだと頷ける人も多いでしょう。著者の研究によると、社長賞などの社内表彰制度は全体としてモチベーションアップにつながらないだけでなく、受賞した社員でさえ違和感を抱き、それどころか無理に競争させられて「自分だけが利益を得た」ことに嫌悪感すら持つといいます。彼らにとっては均等分配が快適な生存環境であり、こよなく愛するマンガやアニメのキャラも「いい人」なのです。
そして、圧巻は若者は「究極のしてもらい上手」だという著者の理論。上司が部下に丁寧に指導したり教育しても、いっこうに自ら動く気配が感じられないどころか、むしろ主導権が逆転して上司の方が操られているといった光景が、いたるところで見られます。素直でまじめないい子オーラを出す以外何もしないという無言の戦略を無意識のうちに備えたいい子症候群の若者を前に、大人は「してあげたい欲求」という自己効力感を抑えることができず、「してもらい上手」が次々と生まれるのです。
では、どうしたらこんなZ世代のテーマと向き合うことができるのでしょうか。著者は、「仕事に普通なんてない」という真実を説いています。目立たず静かに毎日平穏に過ごすことが「普通」だとするなら、その状況は今の日本で得られる最上級の待遇なのです。実際には宝くじ当選級の運の良さか涙ぐましい努力の継続がなければ、仕事中にめったに「普通」の時間などなく、安定を保つことなど難しい。この真実をいかに嫌味や愚痴を交えずに彼ら彼女たちと共有するかが大切なのかもしれません。
(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)