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2023年8月15日

【ブック&コラム】『男はスカートをはいてはいけないのか?』

ジェンダーを超えたキャリアを語った「労務書」

c230815.png著者・神田 くみ、橘 亜季
日本橋出版、定価1540円(税込)


 本書のタイトルを見て、思わず手に取りづらいと感じた読者も少なくないと思う。とりわけ中年以降の男性であれば、ある種の抵抗感すら抱くかもしれない。そんな挑発的な書名だが、副題に「キャリコン視点のジェンダー論」とあるように、内容はキャリアコンサルタントの立場からジェンダー視点で働き方やキャリア設計について考察した、どちらかというと落ち着いた論調の一冊だ。

 共著者はいずれもキャリアコンサルタントであり、神田氏が修士(農学)をバックボーンに、主に性をめぐる人間の出生プロセスなどサイエンス的なテーマに触れた第2章と第5章を担当し、橘氏は修士(文学)の視点から、ジェンダーをめぐる歴史や文化、制度面を解説した第3章、第4章を中心に執筆している。全体としては平易な表現で読者に問いかけるような書きぶりであり、普段あまりジェンダーに関心のない人でもストレスなく読了できる130ページだ。

 実際にはタイトルに直接回答するような目次とはなっておらず、ビジネスやキャリアにおける男性のスーツ文化や女性のメイク、ドレスコードとジェンダーやルッキズムなどに触れる中で、「男はスカートをはいてはいけないのか?」という問いが間接的に浮き彫りにされるような構成となっている。第5章「キャリアコンサルタント視点のジェンダー論」は、ジェンダー分野への目配せや理論が不足しているとされるキャリコン業界への問題提起を含んでおり、キャリコン資格者へのテキスト的な内容ともいえる。

 多様性の尊重やジェンダー差別解消の時流の中で、労務管理やキャリア開発の領域でもジェンダーの視点の重要性が叫ばれているが、具体的な議論はいわゆる女性活躍推進やLGBTQなど性的マイノリティの視点に集中しており、働く世代の男性にフォーカスした場面は著しく少ない。その点、センセーショナルなタイトルで問題喚起を試みた本書は、これからの変化の見取り図へのヒントを含んでいる。(H)

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