Q 先日、定年後の同一労働同一賃金をめぐる最高裁の判断があったと聞きましたが、具体的にはどのような内容だったのでしょうか。
A 7月20日の名古屋自動車事件の最高裁判決は、定年後の同一労働同一賃金をめぐって「基本給」について最高裁が初めて事実上の判断を下した例として、各方面から注目されました。定年後再雇用後の給与が大幅に引き下げられたのは同一労働同一賃金の観点から不合理だとして、定年前の給与との差額の支払いなどを求められた裁判で、最高裁は、基本給などの支給の趣旨や目的は具体的に考慮すべきであり、嘱託社員の基本給は正社員とは異なる性質や目的を有することについて十分な検討を行っていないとして、待遇の格差を違法であると判断した高裁判決を破棄し、名古屋高裁に審理を差し戻しました。
判決では、メトロコマース事件(令和2年10月13日最高裁判決)を引用して、労働条件が不合理であるかどうかの判断(旧労働契約法第20条)については、基本給や賞与に関しても、その趣旨や目的に照らして具体的に考慮し、検討すべきであるとしています。基本給についても従来の最高裁判決の考え方が適用される旨が確認されていますが、以下の引用部分に見られるように、基本給についても個別・具体的に考慮・検討すべきことの重要性が念押しされていると考えることができます。
さらに、正社員の基本給は、「勤続給」の性質のみならず、「職務給」や「功績給」、「職能給」の性質を有するとみることもでき、さまざまな性質を有する基本給の目的を確定することができないことから、高裁の判断は、正社員の基本給は年功的な性格を有するものという判断にとどまり、ほかの性質の有無や内容、支給目的については何ら検討されていない点が指摘され、差し戻しの理由とされています。
いざ実務の現場の目線で考えるとき、正社員と非正規雇用の基本給について、性質や内容、目的の違いが就業規則や労働契約においてあらかじめ明確に説明されているケースはそれほど多くはないと思われるため、この点は今後の実務対応を考える上では一つの課題になっていくのではないかと考えられます。まずは就業規則や労働契約におけるそれぞれの基本給の規定について確認しつつ、必要に応じて詳細の規定化や説明機会の設定などを検討していきたいものです。
(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)