女性難病患者の記念碑小説
著者・市川 沙央
文芸春秋社、定価1430円(税込)
本書は女性難病患者が書き上げた記念碑的中編小説。5月に第128回文学界新人賞を受賞し、芥川賞候補にもなっている。
作者の市川氏(43)は希少難病の先天性ミオパチー患者で、長い発話はむずかしく、人工呼吸器を使用。心肺機能が弱く、電動車イスで移動する。毎日新聞のインタビュー記事によると、背骨の湾曲でパソコンへの打ち込み作業も困難で、iPad miniを使い、親指で"執筆"するという。
タイトルは英語で「せむし」の意味。ウェブライターとしてアダルト向けに売文する様子と、住まいのグループホームにおける介護者らとのやり取りを描いた。ウェブ用語、若者用語が多いうえ、あけすけな性描写もふんだんに出てくるため、年配者の中には拒否反応を示す人も少なくないようだ。
しかし、「紙の本を1冊読むたびに、背骨が潰れていく気がする」「私の身体は生きるために壊れてきた」といった、いわゆる健常者には考えも及ばない身体感覚を描く部分などは、挑戦的であり、すさまじいエネルギーで迫ってくる。とかく難病患者は「保護される者」とみられがちだが、豊かな想像力に恵まれ、鋭く問題提起する能力を持つ人も少なくないことを示した1冊だ。(俊)