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2023年6月15日

小岩広宣社労士の「人材サービスと労務の視点」179・労災請求が行われている場合の健康保険の申請

Q 労働者の負傷や疾病が業務上かどうか判断できずに労災請求を行っている場合、健康保険の給付請求を行うことはできませんか。

koiwa1.png 健康保険の保険給付は、労働者の「業務外」の疾病、負傷などに対して行うこととされており、「業務上」(通勤を含む)の疾病、負傷などは対象とはなりません。しかし、実際には現場で即座に業務上であるかどうかの判断を行うことが難しいケースもあり、労災給付の支給決定は法令に基づいて労働基準監督署長の裁量判断で行われることから、労災保険の給付の請求を行った後に、あわせて健康保険の療養費、傷病手当金などの保険給付を請求する例もあります。仮に労災保険の給付が不認定となった場合、健康保険の請求権が時効消滅してしまうケースもあることから、労働者としては業務上かどうかの判断が判然としない場合には、予備的に健康保険の給付請求の手続きを行うのはやむを得ないといえます。

 この点について厚生労働省は、「労災保険給付の請求が行われている場合の健康保険の給付申請の取扱いについて」(平成24年6月20日事務連絡)で以下のように整理しています。

 ①健康保険、労災保険の保険給付は、それぞれの保険者の判断で行うものであるため、労災保険の認定が確定していないことを理由に、健康保険の保険給付の申請を受理しないことは認められない。
 ②業務上にあたるかどうかは特に慎重な判断を要するため、労災保険の認定の確定を待つまでの間は、標準処理期間(処分までに通常必要とされる標準的な期間)には含まれない。
 ③健康保険の保険給付の権利は、業務上に当たるかどうかの最終的決定が行われているかどうかにかかわらず、2年で時効によって消滅する。
 ④健康保険の給付の請求が合理的な理由もなく受理されなかったなどの場合には、保険給付の権利の行使を妨げる特別な事情があったと認められるため、時効によって消滅しない。


 事務連絡の末尾には、「労災保険給付の請求が行われている場合であっても、結果として業務上の事由であると認められない事例があることから、健康保険の保険者は、健康保険給付の申請を行うことが可能であることを被保険者に周知することに努められるようお願い申し上げます」とあり、労災給付の請求中であっても健康保険の申請が可能であることが再確認され、被保険者への周知が求められています。現場でもしばしば起こり得るケースですが、この事務連絡の内容も十分に理解して冷静に対応したいものです。

「労災保険給付の請求が行われている場合の健康保険の給付申請の取扱いについて」(平成24年6月20日事務連絡)


(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)

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