Q 最近しばしば「マイクロアグレッション」という言葉を耳にしますが、具体的にはどのようなことを指すのでしょうか。
A 「マイクロアグレッション」(Microaggression)は、「micro」(極めて小さな)と「aggression」(攻撃性)を合わせた造語です。意図的かどうかに関わらず、日常の中で無意識のうちのステレオタイプや偏見に基づいて、マイノリティのことを否定したり侮辱する言動のことをいいます。1970年代に米国の精神医学者チェスター・ピアス氏が主に白人が黒人に対して無自覚に行う差別的な言動を念頭に提唱しましたが、2000年代にデラルド・ウィング・スー氏によって再定義され、本人の意図の有無に関わらず、特定の人や集団を軽視したり、侮辱するような、敵意ある否定的な表現が広範に対象となると理解されています。
マイクロアグレッションは、発した側にまったく悪意がないにも関わらず、その言動によって受け手の心に深刻なダメージを与えることから、職場における秩序維持やモチベーションアップの妨げになってしまうことがしばしば問題になります。積極的な意図や攻撃性を持たずに無意識のうちに行われてしまうことから、本人に自覚がないことはもとより、むしろ相手を褒めたと認識しているようなケースも存在し、職場における人間関係の中でもほとんど意識されることがないため、気づかないうちに状況が深刻化して企業や管理者の責任が問われかねないような場合も認められます。パワハラ防止法が施行されたことで企業のハラスメントに対する意識は高まりつつありますが、マイクロアグレッションはきわめて問題が顕在化しづらい特徴があることから、具体的に対策を講じている例はまだまだ少ないといえるでしょう。
マイクロアグレッションの具体的な害悪としては、メンタルヘルスへの影響、身体への影響、職場環境の悪化、生産性・問題解決力の低下などが指摘され、受け手自身の身心への悪影響はもとより、広く職場全体の生産性や風土にも副作用をもたらすことが懸念されます。経営者や管理者は、広い意味でのハラスメント対応の一環として、マイクロアグレッションへの目配せを十分に意識していくことが必要だといえるでしょう。言葉や概念を初めて知ったという人は、まず定義を社内で共有することから始めていきたいものです。
(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)