「不安の時代」にどう備えるか
著者・養老 孟司、藻谷 浩介
毎日新聞出版、定価1760円(税込)
「コロナ禍」はひとまず去った感があるものの、国内を見渡すと小規模地震が頻発したり、"少年団"による銀座強盗に象徴される一連の闇バイト事件など、どこか先行き不安感が漂う社会情勢だ。個々の対応はともかく、こうした「世情」に対してどう考え、どう備えるべきなのか。
高名な解剖学者と気鋭の地域エコノミストによる「異色の」対談とあって、テーマは経済、政治、大地震、循環再生社会、教育問題など多岐に及んでいるが、ほぼ一貫しているのは停滞しているにもかかわらず「事実を見ない」社会風潮への警告だ。
だが、それでも社会は容易には動かない。統計の綿密な分析や地域の実情を背景に、問題の所在を突き止めようとする藻谷氏に対して、南海トラフ大地震への備えをしない政府に対して、「そのときはそのときと思っているのでしょうね」と言う養老氏の"達観"ぶりも目立つ。
結局、政治も行政も、それに慣らされた国民も、従来の延長線上を「なんとなく」歩いているだけで、「自分に合う」制度や生活について真剣に考えないことが最大の難点、ということのようだ。対談形式なので、文章は平易。いろいろな意味で示唆に富む1冊ではある。(俊)