Q 自動車運送業における初任運転者講習をオンラインで受講する場合の労働時間の取り扱いについて教えてください。
A 貨物自動車運送事業者については、「貨物自動車運送事業者が事業用自動車の運転者に対して行う指導及び監督の指針」(平成13年8月20日国土交通省告示1366号)が平成29年3月12日から施行され、従来は11項目あった乗務員に対する一般的な指導及び監督の内容の12項目として、「安全性の向上を図るための装置を備える事業用自動車の適切な運転方法」が追加されました。
② 事業用自動車の運行の安全を確保するために遵守すべき基本的事項
③ 事業用自動車の構造上の特性
④ 貨物の正しい積載方法
⑤ 過積載の危険性
⑥ 危険物を運搬する場合に留意すべき事項
⑦ 適切な運行の経路及び当該経路における道路及び交通状況
⑧ 危険の予測及び回避並びに緊急時における対応方法
⑨ 運転者の運転適性に応じた安全運転
⑩ 交通事故に関わる運転者の生理的及び心理的要因並びにこれらへの対処方法
⑪ 健康管理の重要性
⑫ 安全性の向上を図るための装置を備える事業用自動車の適切な運転方法
具体的には、運転支援装置に係る事故の事例、運転支援装置の性能及び留意点(ブレーキ制御を行う装置、ハンドル操作の警告や支援を行う装置、車体維持を支援する装置)とされ、15時間以上の座学および実車指導を受ける必要があります。
また、初任運転者や高齢運転者、事故惹起運転者といった特定の運転者に対しては、よりきめ細やかな指導を行う必要があることから、初任運転者に対しても上記と同様の内容の指導を実施し、15時間以上の座学教育と20時間以上の実車指導が義務化されています。コロナ禍などの影響もあり、これらのうち座学教育についてはEラーニングなどのオンライン受講をするケースも増えており、各地のトラック協会などでもEラーニング事業者などを指定・斡旋するような例もあります。
労働者が自由な時間に受講できるオンライン講習などを受講するのはとても有益だと考えられますが、運転歴が長くても新たに雇い入れた者は全員が初任運転者となりますので、自主性に委ねて実際に受講しないと事業所の違反が問われて行政処分に課される可能性もあります。
またEラーニングなどのオンライン受講の一般的な考え方として、受講時間が時間外におよんだ場合は、業務命令により義務づけられているものについては労働時間と判断され、労働者の自由意思による任意の受講の場合は労働時間には該当しないと判断されます。初任運転者に対する特別な指導については、法令に基づいて実施され違反について行政処分が想定されることから、原則的に時間外割増などの対象となると考えられます。
(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)