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2023年3月23日

小岩広宣社労士の「人材サービスと労務の視点」167・AIの進歩と働き方の今後

Q 昨今のAIの進歩はめざましく、チャット機能のすごさも話題になっています。これからの働き方にはどんな影響があるでしょうか。

koiwa1.png アメリカのOpenAI社が2022年に公開した人工知能(AI)の「aiチャットgpt」が史上最速でユーザー数1億人を突破したことが話題になりました。わずか数分間で簡単にユーザー登録して、日本語で簡潔なキーワードを入力すると、数秒で明快な回答が示され、しかもかなり自然な言葉で文章が生成されるので、クオリティの高さに驚いた人も少なくないと思います。

 従来、AIは解が明確な計算処理やビッグデータによる集計分析などは人間には到底およばないパフォーマンスを発揮するけれども、文章を書くという行為は人間的な経験知や語彙、表現をめぐる価値観が介在する要素が強いため、むしろAIが人間の持つ知的水準に到達するのはまだまだ先だと思われていました。ところが、かなり高度な解析力で経験知を瞬時に正しい文章に落とし込む姿がオープンソフトという形でしめされたため、論理的で人の心を打つうまい文章が書けるとか、外国語を母国語に正しく変換できるというだけでは、必ずしも知的労働とはいえない時代がくるのではという危機感が広がったのではないかと思います。

 AIが急速に進化する時代の中で、私たちの働き方はどのように変化していくのでしょうか?確たることはだれにも分かりませんが、ざっくりと考えると以下のような展開が予測されるのではないでしょうか。

(1)決まっている答えを導く業務は、AIによって代替されていく
 行政手続き、会計記帳、給与計算、社会保険、資料作成、データ入力、ファイリングなどは、ほとんどの分野でAIによって代替しうる可能性が高いのではないでしょうか。働くことは食べるための糧を手にする方法と割り切って、自分の意思や感性を押し殺して毎日定型業務をこなすような働き方は、そもそも"労苦"という感情を持たず有給休暇も発生しないAIには太刀打ちできない構図になっていくはずです。

(2)調和と安定が尊ばれた職場文化から "個性"が威力を発揮する時代へ
 従来、集団的規律や相互扶助が重んじられてきた日本社会では、先例と違った手法やとがった個性は排除されがちでしたが、AIによる定型業務の代替が加速していくことで、このような旧来型の構図が一変する可能性が高いと考えられます。人間しか発揮できない"感情労働"によってAIへの優位性が確立される状況になると、ありのままの価値観において際立った個性を持っている人の活躍が促され、対人間ではなく、対AIにおける"個性"が問われる時代が訪れるかもしれません。

(3)職場における性別役割規範の意味が変わる
 配偶者控除や被扶養者制度、第3号被保険者制度などの税制や社会保険制度などが従来の典型的な夫=仕事、妻=家事・育児という昭和型の構図を後押ししてきましたが、このような従来の役割規範は大きく変容することが予想されます。男性向き、女性向きという属性別の志向・分類はあまり意味をなさなくなり、性差を超えた人間対AIの構図の中で、人間コミュニティがいかに連携し、AIによる労働の代替が加速する中で独自の就労の意義や付加価値を生み出していくかが問われる時代が近づくのではないでしょうか。

(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)

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