Q 性的少数者に対する問題発言が政治の世界でも毎日のように話題になっています。パワハラ防止法との関連では、どのように考えるべきでしょうか。
A 首相秘書官が「問題発言」によって更迭されたことを受けて、いわゆる性的少数者に対する発言や表現のあり方が問われています。国会でも「LGBT理解増進法案」への動きが注目されていますが、職場においてもあらためてハラスメント対策などの徹底をはかっていくことが大切でしょう。そもそも今回のような「問題発言」といわゆるパワハラ防止法(労働施策推進法)との関係は、どのように整理されるのでしょうか。
2020年6月から大企業、2022年4月から改正施行されたパワハラ防止法では、①優越的な関係を背景とした言動、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの、③労働者の就業環境が害されるもの、という「パワハラ」の定義規定が置かれ、パワハラ防止方針や懲戒規定の周知・啓発、相談窓口の設置・運用などが事業主に義務づけられています。パワハラの範囲には、いわゆるSOGIハラ(性的指向・性自認に関するハラスメント)やアウティング(本人が望まない性的指向・性自認の暴露)も含むとされ、具体的な内容はパワハラ防止指針(令和2年厚生労働省告示第5号)で示されています。
指針では、パワハラの6類型(身体的な攻撃、精神的な攻撃、人間関係からの切り離し、過大な要求、過小な要求、個の侵害)について、それぞれ典型的な例示と留意点が記述されていますが、性的指向・性自認をめぐる論点は以下の通りです。
・該当すると考えられる例
①人格を否定するような言動を行うこと。相手の性的指向・性自認に関する侮辱的な言動を行うことを含む。
個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)
・該当すると考えられる例
②労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報につい て、当該労働者の了解を得ずに他の労働者に暴露すること。
個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)
・該当しないと考えられる例
②労働者の了解を得て、当該労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療 等の機微な個人情報について、必要な範囲で人事労務部門の担当者に伝達 し、配慮を促すこと。
パワハラ防止法の解釈通達である労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律第8章の規定等の運用について(雇均発0210第1号)では、「精神的な攻撃」のうちの「人格を否定するような言動を行うこと。相手の性的指向・性自認に関する侮辱的な言動を行うことを含む」の解釈について、以下のような解釈が示されています。
今回の問題発言は前提として雇用関係におけるものではなく、オフレコにおける記者に対する発言であったためパワハラ防止法にあてはまるものではありませんが、仮に職場において「優越的な関係」にある者が「隣に住んでいたら嫌だ。見るのも嫌だ」という趣旨の発言をしたとしたら、その背景や客観的な状況、労働者個人の受け止め方などによってはパワハラに該当するケースがあると考えられるでしょう。
通達では「相手の性的指向・性自認の如何は問わない」とされていますので、言動の相手方が性的少数者であるかどうかに関わりなくパワハラが構成される可能性もあります。パワハラ防止法が中小企業に施行されてまもなく一年になりますが、社内における取り組みを含めてあらためて認識を共有していきたいものです。
(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)