「仕事」を長い時間軸で考えるヒント
著者・中沢 孝夫
夕日書房、定価1100円(税込)
郵便局職員・全逓専従を経て45歳で大学進学。その後、教職・研究者の立場で内外2000社の製造業から話を聞くというフィールドワークを重ねてきた著者による論考集だ。
本のタイトル「働くことの意味」は、10章に及ぶ広範なテーマの象徴的表現と推察され、各章は独立したエッセイに近い。通底するのは「言われたからやる」とか「下請けだから仕方ない」といった労働観ではなく、経験を蓄積したプロフェッショナル個々の確かな自信と、出会いや発見の連続で新しい仕事が生まれる創造性への期待感に価値を見出そうとする姿勢だ。「人は仕事をしながら目標を持つようになる」と長い時間軸で捉え、即戦力に絞りすぎた教育には矛盾を指摘する(「すぐに役立つ人間はすぐに役に立たなくなる」と先人の書籍から引用)。
相当に落ち着いた地平から働き方を概観する人材論であり、要点を順序立てて解き明かしていくような気ぜわしい構成とは違う。1944年生まれの著者のキャリアの航跡と企業社会に対する観察眼を味わうような読み方がしっくりくる。
(久島豊樹/HRM Magazine より)