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2023年1月12日

小岩広宣社労士の「人材サービスと労務の視点」157・首相年頭記者会見と労働法改正

Q 1月4日に岸田首相が年頭記者会見を行いましたが、2023年の労働法や社会保険関係の動向についてどんなことが読み取れるでしょうか。

koiwa1.png 新年を迎えると首相が伊勢神宮を参拝後に年頭記者会見を行うのが恒例ですが、ここでの首相の発言がその年の改正や施策の方向を占うような例も少なくありません。2018年に当時の故安倍晋三首相が働き方改革への挑戦を明言して、働き方改革関連法が成立、施行へと向かったのは記憶に新しいです。首相は経済団体などでも年頭あいさつを行いますが、年頭の仕事始めに新たな一年の政策について網羅的に国民に語る年頭記者会見には、さまざまなヒントが見え隠れしているといえるでしょう。

 今年の岸田文雄首相の年頭記者会見では、外交や安全保障、経済対策や環境問題など多岐に渡るテーマに触れられていますが、以下にもっとも端的に雇用政策や社会保障をめぐる方策が示されていると思います。

 賃上げを持続可能なものとするため、意欲ある個人に着目したリスキリングによる能力向上支援、職務に応じてスキルが正当に評価され、賃上げに反映される日本型の職務給の確立、GXやDX(デジタル・トランスフォーメーション)、スタートアップなどの成長分野への雇用の円滑な移動を三位一体で進め、構造的な賃上げを実現します。本年6月までに労働移動円滑化のための指針を取りまとめ、働く人の立場に立って、三位一体の労働市場改革を加速します。

 女性の積極登用、男女間賃金格差の是正、非正規の正規化なども経済界と共に進めていきます。また、女性の正規雇用におけるL字カーブや、女性の就労を阻害する、いわゆる103万円、130万円の壁などの是正にも取り組んでまいります。

 官民連携でのこうした取組を通じて、実質賃金の上昇が当たり前となる社会、そうした力強い経済の実現を目指します。賃上げはコストだという時代は大きく変わり、能力に合った賃上げこそが企業の競争力に直結する時代になっています。賃上げによる人への投資こそが日本経済の未来を切り開くエンジンとなります。


 持続可能な構造的賃上げを実現するため、成長志向の中小企業・小規模事業者を後押しするための設備投資、販路開拓、IT導入、事業承継などの支援、労働移動の円滑化やデジタル分野などのリスキリングに向けた投資、人材の出向起業・リカレント教育支援、企業における人的資本経営の推進、副業促進に向けた支援などが拡充・創設され、成長分野への雇用移動の円滑化を目指した具体的な指針がまとめられるとされています。

 また、103万円と130万円の税と社会保障における扶養控除の壁の是正にも取り組むとされています。パートタイマーなどへの社会保険の適用拡大によって、以前のような扶養控除の壁は実質的に形骸化しつつあるともいわれますが、本格的なダブルインカム社会の到来にあたって課題となりがちな2つの壁にも、何らかの変革がもたらされる可能性があるでしょう。

 今年は働き方改革のような抜本的な労働法の改正は予定されていませんが、それゆえに逆に今の国策の狙いが端的に言葉化されているといえるかもしれません。リスキリングやリカレント教育を中心とするさまざまな補助金などの施策と、扶養控除の壁を含めた女性活躍推進のテーマが、今年の大きな流れだといえるように思います。具体的な内容は今後の展開次第だと思いますが、最新情報に注目していきたいところです。

(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)

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