Q 1月4日に岸田首相が年頭記者会見を行いましたが、2023年の労働法や社会保険関係の動向についてどんなことが読み取れるでしょうか。
A 新年を迎えると首相が伊勢神宮を参拝後に年頭記者会見を行うのが恒例ですが、ここでの首相の発言がその年の改正や施策の方向を占うような例も少なくありません。2018年に当時の故安倍晋三首相が働き方改革への挑戦を明言して、働き方改革関連法が成立、施行へと向かったのは記憶に新しいです。首相は経済団体などでも年頭あいさつを行いますが、年頭の仕事始めに新たな一年の政策について網羅的に国民に語る年頭記者会見には、さまざまなヒントが見え隠れしているといえるでしょう。
今年の岸田文雄首相の年頭記者会見では、外交や安全保障、経済対策や環境問題など多岐に渡るテーマに触れられていますが、以下にもっとも端的に雇用政策や社会保障をめぐる方策が示されていると思います。
持続可能な構造的賃上げを実現するため、成長志向の中小企業・小規模事業者を後押しするための設備投資、販路開拓、IT導入、事業承継などの支援、労働移動の円滑化やデジタル分野などのリスキリングに向けた投資、人材の出向起業・リカレント教育支援、企業における人的資本経営の推進、副業促進に向けた支援などが拡充・創設され、成長分野への雇用移動の円滑化を目指した具体的な指針がまとめられるとされています。
また、103万円と130万円の税と社会保障における扶養控除の壁の是正にも取り組むとされています。パートタイマーなどへの社会保険の適用拡大によって、以前のような扶養控除の壁は実質的に形骸化しつつあるともいわれますが、本格的なダブルインカム社会の到来にあたって課題となりがちな2つの壁にも、何らかの変革がもたらされる可能性があるでしょう。
今年は働き方改革のような抜本的な労働法の改正は予定されていませんが、それゆえに逆に今の国策の狙いが端的に言葉化されているといえるかもしれません。リスキリングやリカレント教育を中心とするさまざまな補助金などの施策と、扶養控除の壁を含めた女性活躍推進のテーマが、今年の大きな流れだといえるように思います。具体的な内容は今後の展開次第だと思いますが、最新情報に注目していきたいところです。
(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)