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2023年1月 5日

小岩広宣社労士の「人材サービスと労務の視点」156・2023年の労働法改正

Q 新たな年を迎えましたが、2023年の労働法や社会保険の関係の改正が気になります。今年の改正の大まかな流れについてお教えください。

koiwa1.png 新年明けましておめでとうございます。昨年に引き続きこのコラムを執筆させていただく、社労士の小岩です。早いもので4年目の担当となりますが、今年は労働法改正や労務管理を取り巻く最新情報を中心に、昨今何かと話題になることが多い、ダイバーシティ&インクルージョンやジェンダーをめぐるトピックなどにも触れていきたいと思いますので、引き続きよろしくお願いいたします。

 2023年もさまざまな改正が予定されていますが、とりわけインパクトが大きいのは、4月からの中小企業の月60時間超の時間外労働の割増賃金引上げや賃金のデジタル払いの解禁、大企業の育児休業取得状況の公表義務化です。以下に2023年の主な改正点を整理します。

2023年1月~ 協会けんぽの様式変更
4月~ 中小企業の月60時間超の時間外労働の割増賃金引上げ
賃金のデジタル払いの解禁
大企業の育児休業取得状況の公表義務化
職長安全衛生教育の対象業種の拡大
危険有害作業に関する保護措置の対象者の拡大
雇用保険料率の引き上げ


 2010年の労基法改正で1か月60時間を超える時間外労働について割増賃金率が50%以上に引き上げられた際に中小企業への適用は猶予されましたが、2023年4月から猶予措置がなくなり、中小企業についても月60時間超の時間外労働について50%以上の割増賃金の支払いが必要となります。実務的には割増賃金の計算方法を変更する必要があり、月60時間までの部分と60時間超の部分に分けて計算することになるため、新たな割増賃金率へと就業規則(賃金規程)を変更した上で労基者への届出などを行うことになります。

 賃金のデジタル払いの解禁は、労基法で定められた通貨払いの原則についての規制緩和であり、キャッシュレス決済の普及や送金サービスの多様化が進む実態に対応するため、一定の要件を満たした場合に資金移動業者の口座への賃金支払(スマートフォンの決済アプリなどへの振込など)を可能とすることとされました。デジタル払いを適用する場合は、銀行口座などへの給与支払の選択も可能とした上で、労働者に対して給与のデジタル払いについての説明と同意が求められることにも注意しなければなりません。

 育児介護休業法の改正により、2023年4月から従業員数1000人超の企業に育児休業等の取得状況を年1回公表することが義務づけられます。具体的には、①育児休業等の取得割合、②育児休業等と育児目的休暇の取得割合のいずれかを自社のホームページや「両立支援のひろば」(厚労省運営のウェブサイト)などで公開することになるため、該当する企業は社内での実態把握や集計などの準備をすすめる必要があります。

 雇用保険料率の引き上げについては、雇用調整助成金の特例措置などにより財源が逼迫していることを受けて、2023年4月から0.2%引き上げて1.55%とされる見込みであり、毎月の賃金から控除される労働者負担は0.5%から0.6%に引き上げとなります。2022年は10月から保険料が引き上げられたことから労働保険の年度更新の際の集計・申告手続きが複雑となりましたが、2023年は保険年度に対応した引き上げとなるものの、2年連続の引き上げにともなう法定福利費の上昇が企業経営にも直結することになります。

 協会けんぽの様式変更は法改正ではありませんが、傷病手当金支給申請書、高額療養費支給申請書、出産手当金支給申請書、出産育児一時金支給申請書、任意継続被保険者資格取得申出書、被保険者証再交付申請書など多岐に渡る様式が一新されますので、実務担当者は的確に対応することが求められます。2023年以降も旧様式を使用することもできますが、新様式で申請(届出)した場合よりも事務処理などに時間を要するケースがある(けんぽ協会Q&A)とされていますので、留意する必要があります。

 2023年は約3年のコロナ禍によって「変わったもの」「変わらなかったもの」が、雇用環境においても波及し集約され、次の時代に向けての方向づけがじわじわと明確化されていく一年になると思います。企業経営の観点からは労務コストの増加や労務リスクの顕在化への対応が迫られることになりますが、一方ではより柔軟に多様性や価値観の違いを認め合う働き方や、従来の労働者の枠組みにとどまらない自律的な人材が活躍する可能性もひらかれる時代が近づくことで、事業を通じた社会貢献のあり方もまた多元化していくかもしれません。それぞれの人が立場を超えて多様性の時代に対応した充実した職業生活を送れるよう、真摯に取り組んでいきたいものです。

(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)

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