氷河期世代が抱える格差感覚を描写
著者・小林 美希
講談社、定価968円(税込)
タイトルは給与所得者の平均年収。論点はこの額の高い安いではなく、第3部で提起された就職氷河期世代の放置がもたらす社会的危機にある。
それに先立つ第1部(平均収入・6名)と第2部(平均収入以下・5名)では、サンプリング各自の生活実態が独白スタイルでトレースされている。世帯年収では700万円以上あり、家を買い、クルマを所有し、子育てにいそしむ恵まれた中間層にも思えるが、当人たちは余裕を失い、悲鳴を挙げる。その圧迫感の内訳は、扶養の負担感、雇用の不安定、住宅ローンや奨学金の返済、クルマの維持費、子どもの学費など。特に女性は子育てをハンデと感じ、ストレスを膨らませている。世帯年収1000万円でも豊かさの実感はなく不安感・恐怖心はほぼ共通している。
先行する世代との違いは「どうにかなる」という楽観が許されない現状認識にあり、そこが就職氷河期世代を縛る自己責任論の限界、疲労感の正体ではないかと著者は読み解く。究極的には勤労者全員正社員が望ましいと論じ、「格差是正法」の制定を提案している。
(久島豊樹/HRM Magazine より)