Q あるテレビ番組でホワイト過ぎる職場から去る若者が増えているという話題が放送されていました。実際はどうなのでしょうか?
A ホワイト企業とは、ブラック企業(過重労働・違法労働・パワーハラスメントなどを認識しつつも適切な対応をせずに放置している企業)の反意語であり、法令や社内規則を遵守し、福利厚生が整っていることで離職率が低く、ワーク・ライフ・バランスやダイバーシティ推進などの観点からも優れた企業のことをいいます。ホワイト企業は働きやすくモチベーションが上がる環境であることから就活生にも人気であり、待遇面でも正当な評価が得られやすいことから人材の定着度も高いとされてきましたが、最近はこのような流れにも変化がみられつつあるようです。
12月19日放送の「グッド!モーニング」(テレビ朝日系列)では、ホワイト過ぎる職場から去る若者がクローズアップされ、若手社員の4分の1以上が叱られた経験がないといった実態が紹介されました。このようなトピックはSNS上でも話題になり、入社数年の若手社員たちの意識に大きな変化が起こりつつあるのではないかとの懸念の声も聞かれます。常識的に考えれば恵まれた就業環境にならない優良企業から離脱する若者が増える姿には、疑問や違和感を持つ人も少なくないと思います。
働きやすいホワイト企業ゆえに離職率が高まっているというパラドックスについては、リクルートワークス研究所主任研究員の古屋星斗氏が『ゆるい職場 若者の不安の知られざる理由』(中公新書ラクレ)でも真正面から取り上げており、さまざまな事例やデータを用いて、日本社会や企業が抱える課題の実態や解決に向けた方策が述べられています。企業の人事労務戦略として、ホワイト企業に近づく努力をしていくことで優秀な人材が獲得でき、雇用定着を促すことで長期的な人材育成ができるとする従来の発想とは真っ向から反する見立てには、戸惑いを感じる人も多いように思います。
いわゆる働き方改革の国策を推進することで実施されてきた、過重労働の撲滅、有給休暇の取得促進、同一労働同一賃金、ハラスメント対策などの一環した政策は、働き手の権利意識を高め、従来の「企業の論理」にあまり縛られることなく「自分本位」のスタンスで職務に従事できる環境が後押しされてきたといえますが、その道筋は必ずしもすべての人に揺るぎのない光明をもたらすものとは限らず、あたかも教育の分野において「ゆとり教育」の弊害が顕在化したような副作用もはらんでいるのかもしれません。
企業にコンプライアンス遵守が強く求められ、ハラスメント防止についての意識や認知が高まる中で、逆に本来は被害者どうかが怪しい人がいたずらに声を上げて権利を主張する「ハラスメント・ハラスメント(ハラハラ)」といった状況も起こりつつあるご時世です。もはや「弱者」である労働者の権利保護をはかることのみが至上命題であり、ホワイト企業を目指しさえすれば採用や人材育成に成功するという見取り図のみが妥当ともいえない世の中になりつつあるのかもしれません。
2022年にある種の現象として問題提起された「ゆるい職場」の向かう先はまだ誰にも分からないですが、来年以降の雇用の現場に引き続くであろうひとつのトレンドの変化だといえそうです。2022年も年の瀬となりましたが、今年一年を振り返り、来年を見据える上で気になる象徴的なトピックなような気もします。2023年はどんな年になるのでしょうか。
(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)