Q 今年の社労士試験にも派遣法に関する出題があったそうですが、どんな問題だったのでしょうか。
A 今回のコラムでは、ちょっと切り口を変えて、令和4年の社労士試験について触れてみたいと思います。派遣法については毎年一問出るか出ないかといった出題状況ですが、派遣の実務に携わりながら受験する人もいますので、気になるところかもしれません。
問4―D 労働者派遣事業の許可を受けた者(派遣元事業主)は、その雇用する派遣労働者が段階的かつ体系的に派遣就業に必要な技能及び知識を習得することができるように教育訓練を実施しなければならず、また、その雇用する派遣労働者の求めに応じ、当該派遣労働者の職業生活の設計に関し、相談の機会の確保その他の援助を行わなければならない。
もちろん「○」です。派遣業界にいる人には簡単すぎる設問かもしれませんが、キャリア形成支援制度はすべての派遣労働者に実施が義務づけられているけれども、キャリアコンサルティングは窓口の設置義務だと考えすぎると、かえって迷ってしまうかもしれません。派遣法30条の2第1項では「派遣元事業主は、その雇用する派遣労働者が段階的かつ体系的に派遣就業に必要な技能及び知識を習得することができるように教育訓練を実施しなければならない」とされ、第2項では「派遣元事業主は、その雇用する派遣労働者の求めに応じ、当該派遣労働者の職業生活の設計に関し、相談の機会の確保その他の援助を行わなければならない」と規定されています。
シンプルに条文知識が問われている問題でまったくひねりはありませんが、社労士試験の受験生でも派遣法の条文をくまなく読んでいる人は少ないと思いますので、実務上も重要な論点を真正面から聞いているという意味では良い設問だと思います。派遣業界の目線からすると、ふだんの現場感覚でも重要視されているポイントに触れられていて、少し嬉しい気がしますね。
問8-B 労働者派遣事業により派遣される者は派遣元事業主の適用事業の「労働者」とされるが、在籍出向による出向者は、出向先事業における出向者の労働の実態及び出向元による賃金支払の有無にかかわらず、出向元の適用事業の「労働者」とされ、出向元は、出向者に支払われた賃金の総額を出向元の賃金総額の算定に含めて保険料を納付する。
こちらは「×」です。労働保険徴収法からの出題ですが、労働保険の適用関係について、派遣労働者の場合と出向労働者の場合の違いが問われている典型的な論点です。
前段については「労働者派遣事業に対する労働保険の適用については、労働者災害補償保険・雇用保険双方とも派遣元事業主の事業が適用事業とされる」とされているため正しい内容ですが、後段は「出向労働者に係る保険関係が、出向元事業と出向先事業とのいずれにあるかは、出向の目的及び出向元事業主と出向先事業主とが当該出向労働者の出向につき行なった契約ならびに出向先事業における出向労働者の労働の実態等に基づき、当該労働者の労働関係の所在を判断して、決定すること」とされているため、「有無にかかわらず・・・」とする部分が誤りとなります(昭和61年6月30日基発383号)。
派遣労働者や出向労働者をめぐる労働保険の適用関係については、実務の現場でもしばしば聞かれる古くて新しいテーマだといえますが、社労士試験の問題はシンプルに論点が整理されていますので、実務家にとっても知識を再確認するのに使えるかもしれません。
この2つの設問は基本的な学習をしている人なら確実に解答できる基礎的な問題ですが、だからこそ実務で問われる重要論点がコンパクトに凝縮されているともいえます。社労士試験に興味のある人はもちろん、まったく関心がない人も少し触れてみる機会にしていただけたら幸いです。
(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)