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2022年10月27日

小岩広宣社労士の「人材サービスと労務の視点」146・副業・兼業の促進に関するガイドライン わかりやすい解説③

Q 労働者が副業・兼業を行う場合の簡便な労働時間管理の方法について教えてください。

koiwa1.png 副業・兼業の場合の所定労働時間の通算の「原則的な労働時間管理の方法」については、前回のコラムで解説しました。それでは、もう1つの「簡便な労働時間管理の方法(管理モデル)」とはどのような仕組みでしょうか。自社と副業・兼業先の双方で所定外労働が発生する場合は、労働者から労働時間の申告を受けたり、事業所が労働時間の通算管理をしたりと、労使双方の実務上の負荷が高くなります。そこで、以下のようなルールによって労働基準法の労働条件を遵守することで、副業・兼業を行う場合の労働時間の管理を行うのが、「簡便な労働時間管理の方法(管理モデル)」です。

① 副業・兼業の開始前に、
(A)副業・兼業を行う労働者と時間的に先に労働契約を締結していた使用者(「使用者A」)の事業場における法定外労働時間
(B)時間的に後から労働契約を締結した使用者(「使用者B」)の事業場における労働時間(所定労働時間及び所定外労働時間) を合計した時間数が時間外労働の上限規制である単月100時間未満、複数月平均80時間以内となる範囲内において、各々の使用者の事業場における労働時間の上限をそれぞれ設定する。
② 副業・兼業の開始後は、各々の使用者が①で設定した労働時間の上限の範囲内で労働させる。
③ 使用者Aは自らの事業場における法定外労働時間の労働について、使用者Bは自らの事業場における労働時間の労働について、それぞれ自らの事業場における36協定の延長時間の範囲内とし、割増賃金を支払う。


 ひとことで整理するならば、事業所Aの法定外労働時間と事業所Bの労働時間(所定+所定外)を合計した時間数が労基法の上限に収まるように、A、Bそれぞれであらかじめ36協定で時間数を設定しておくという考え方です。先にカウントする事業所Aで法定労働時間を超えると法定外労働時間となるため、このような設定になります。

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 上の図のように、Aで所定外労働がない場合は分かりやすいです。Bでの労働時間のうち、Aからカウントして法定内に収まっている時間数までは法定内となり、それを超える労働時間について法定の割増賃金が発生することになります。BではAでの労働時間について把握できないため、労働者からの申告を受ける必要があります。

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 こちらは、A、Bそれぞれで所定外労働がある例です。この場合は、原則的な労働時間の管理の方法では、A、Bの所定労働時間を通算して時間外労働を確認することになりますが、あくまで事後的な処理となるため労働者にも事業所にも負荷がかかることになります。そこで簡便な労働時間管理の方法では、あらかじめA、Bそれぞれ労基法の上限の範囲内で労働時間の上限を設定することで、事業所内での判断・裁量の範囲内で労働時間の管理が完結するため、事務処理もかなり簡便になることが期待されます。

(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)

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