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2022年9月 8日

小岩広宣社労士の「人材サービスと労務の視点」139・顧客への対応が怖い従業員

Q 勤務態度も真面目で業務知識にも問題がないのですが、「顧客対応が怖い」という従業員がいて困っています。どのように対応すべきでしょうか。

koiwa1.png 若手を中心に、顧客対応が苦手だという従業員が増えています。彼ら彼女たちの多くは、いわゆる良い大学を優秀な成績で卒業し、性格的にもきわめて真面目で、コツコツと努力を重ねるタイプの人であり、必ずしもひと昔前にしばしば問題になったような不真面目で向上心に欠けたタイプの従業員ではありません。新入社員研修などでも、「電話に出るのが怖い」という従業員がいるといいますが、このような例はコロナ禍の数年間を経て、むしろ増えているのではないかと思います。

 顧客対応の問題は、必ずしも間違った対応をすることで顧客からクレームを受けるような出来事とはかぎりません。むしろそのようなケースは従業員の対応が不適切なことが誰の目にも明らかですから、上司や先輩が必要な注意や指導を重ねることで解決に向かうことが多いはずです。問題はそうではなくて、従業員本人の対応は必ずしも間違っていないし、かといって顧客の態度も決して間違っているとはいえないというケースです。最近現場で問題になる場面では、このようなパターンがとても増えているように感じます。

 本人の対応がまったく間違っていないのに、顧客から厳しすぎるような仕打ちを受けるようなことがあります。このようなパターンは行き過ぎればカスタマーハラスメントですから、会社はあくまで本人の立場を守りながら顧客といえども毅然とした態度で応じる必要があります。経験が未熟なうちは誰しも顧客から舐められたり、顧客から過大な要求を突き付けられるようなことがありますが、会社が組織として本人を守るスタンスを見せることで、それらの問題は解決していくことがほとんどです。

 それでは、「顧客対応が怖い」とはどういう状況でしょうか。従業員本人は真摯に業務に取り組んでいるつもりでも、顧客が何を考えているのか分からない。したがって、顧客からどのような要望が出たり、どのような反応があるかが分からない。まったく予想ができないものだから、とっさに対応することができず、焦って的外れなことを言ってしまったり、相手の言葉の意味をはき違えてしまい、ずれた対応を取ってしまったりする。顧客心理にかぎらず、相手が考えていることが分からないという悩みは、Z世代ではかなり多く見られる傾向です。

 彼らがさらに困難に陥ってしまうのは、見るからには同じような対応しているのに、なぜか顧客は先輩社員が対応すると納得するのに、自分が対応すると何かと問題が起こるのは納得ができないという心理です。ある程度その仕事を経験している人なら、ベテランと新人とでは、表面的には同じように見えても業務のスキルも顧客に寄り添うノウハウもまるで違うことに気づくものですが、なまじ真面目で優秀な若者ほど自分の努力が報われないことに悩み、ときに自暴自棄にすらなったりするものです。

 こうしたZ世代の人の悩みを解消して、やる気を持ってもらうためには、先輩社員が実際に本人の傍らに立って"実演"してみせる態度が大切です。何となく先輩がやるとうまくいくのに、同じように自分がやるとうまくいかないことを、理屈ではなくリアルな姿として共有することで、実際には本人が気づいていないスキル面の未熟や顧客心理に寄り添うスタンスなどを、具体的に体感することができるケースも少なくないでしょう。

 さらにはマニュアルの存在も一定の効果を発揮します。とかく顧客対応において万能なマニュアルはなかなか存在しないものですが、何から手を付けたらよいか分からない新人の指針となるだけでなく、実際にうまくいかなかったときの課題探しなどにもひと役買うことになります。結果を褒めたり叱ったりすることも必要ですが、対人関係においてはまずはマニュアルにしたがって努力する態度を評価するスタンスも大切にしたいものです。人間心理を理解するには相応の経験と感受性が求められることから、焦らずに長い目で育てていく目線が肝要かもしれません。

(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)

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