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2022年8月25日

小岩広宣社労士の「人材サービスと労務の視点」137・男性の働き方・暮らし方

Q ジェンダー平等への取り組みが求められる時代ですが、社内での取り組みでも女性社員の関心が高いものの、男性の問題意識は希薄なケースが多いように思います。男性の視点からアプローチするおすすめの書籍などはありますか。

koiwa1.png 前回は女性活躍推進法の男女の賃金格差の開示について触れましたが、ハラスメント防止や男性の育休の推進、社会保険の適用拡大なども相まって、国策として推進されるジェンダー平等が労働分野においてもさらに加速しつつあるといえます。ところが、男女平等や女性活躍推進について社内などでさまざまな取り組みを進めるほど、それらに問題意識を持って積極的に関わろうとするのはほとんど女性であり、男性とりわけ管理職やベテラン社員はあまり関心を持とうとしないという声もしばしば聞きます。

 男性と女性とがともに尊重し合いながら高め合える職場づくりを推進していくためには、男性自身が当事者として家事や育児参加について考えるとともに、従来の男性稼ぎ手社会のあり方について健全な懐疑心を持って向き合っていく努力も必要なのかもしれません。

 昨今はさまざまなジェンダー研究や職場での取り組みについての書籍が出版されていますが、その中でも男性の働き方や生活のあり方に視点を絞ったものとしては、多賀太著『ジェンダーで読み解く 男性の働き方・暮らし方』(時事通信社)が挙げられます。多賀氏は日本でも有数のジェンダー研究の第一人者ですが、教育学者でもあることから子育てや教育面からの切り口もリアルで実践的であり、日本の男性の働き方と暮らし方をめぐるさまざまな問題の背景やこれから持続可能に発展していく社会に向けた問題提起が、とても平易な文体で端的にまとめられています。具体的には、以下のような目次構成になっています。

第1章 男性稼ぎ手社会の終焉
第2章 ジェンダー平等の実現に求められる男性の「ケア」労働
第3章 母親の「イライラ」と父親の「モヤモヤ」―イクメンブームの功罪
第4章 家庭教育と父親役割のインフレ化
第5章 ハラスメントのない職場づくりに男性はどう関わるか
第6章 社会を挙げてドメスティック・バイオレンスと虐待を防止する

 「第2章 ジェンダー平等の実現に求められる男性の『ケア』労働」では、育児や家事などのケア労働に参加する男性の実態と職場における意識などについてさまざまな調査結果に触れられており、「第5章 ハラスメントのない職場づくりに男性はどう関わるか」では、戦前の軍隊教育などから「男らしさ」が植え付けられてきた歴史や、男性中心の組織で「わきまえる」ことが求められる職場文化の構造と変革への可能性についてまとめられています。いずれも昨今の時代の流れと職場の現実の双方に目配せする上で有益な示唆に富んでおり、男性の目線からジェンダーについて問題意識を持ちたい場合にはとても役立つ内容だと思います。

 余談ですが、筆者の事務所でも本書を課題図書として職員参加の勉強会を開催しましたが、男女問わず新鮮な目線が得られてとても勉強になったと好評でした。個人的には、今ほど男性が女性の目線から、女性が男性の目線から、世の中を見つめ直してみることが必要な時代はないと感じます。本書のようなテーマに接することで、立場を超えてそうした柔軟な目線に触れる機会が得られたなら有益ではないでしょうか。


(小岩 広宣/社会保険労務士法人ナデック 代表社員)

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