町が誤送金した給付金4630万円をネットカジノに使い込んだ男に、持続化給付金2億円をだまし取った国税局職員。二つの事件にはなんのつながりもなく、偶然、同じ時期に発覚したに過ぎない。年齢が24歳というのも偶然だ。にもかかわらず、事件の底に流れる共通項のようなものが感じられる。
一つは、「大人=アナログ世代」が「子供=デジタル世代」に"完敗"したこと。誤送金事件で町は懐かしの(!)フロッピーディスクを使っていた。給付金詐欺は首謀者がねずみ講よろしく、無知な学生を勧誘して紙の申請用紙に記入させていた。さらに、どちらの場合も、スマホを使ってあっという間に巨額の金が動くネットカジノや暗号資産の投資に使っていたという。前政権の肝入りで発足したデジタル庁にとっては、顔に泥を塗られたようなもの。「不正に得た金を返してくれ」と呼びかける経産省の情けなさといったら......。
しかし、役所の不手際以上に深刻なのは、両ケースに共通する「子供」たちの倫理感の欠如、善悪の判断マヒだ。ネットカジノ男は誤送金を承知のうえで、違法バクチに流用した。持続化給付男は最初から、悪用するために「投資セミナー」まで開いていた。
こうした悪行に対して、現代の「若者の貧困」を原因に挙げる識者もいるが、若者に金がないのは昔からの話。それでも、盗みが悪いことはだれもが知る常識だった。仮想現実に慣れっこになっているデジタル世代には、それさえ通じないのだろうか。現代の学校にはIT教育が入り、高校では金融教育も始まるという。それも結構だが、それ以前に必要な教育がありはしないか。どうしても心配になる。(典)